しっぽきり

 この記事は少年サンデー8号のネタバレを含みます。
 酔いつぶれて外で寝たり、酒瓶踏んで転んだり、鈍器でどつかれかけたり、なんだか知らない爆煙に巻きこまれたり、となんだかんだで死線をくぐってきたような気もする雪路さんは、無事職員室に戻ってきました。
 小言を言ってくるプラモデラーも華麗にスルーし、さてもう一寝入りと行きたいところでしたが、今眠ってしまえば、居酒屋の開店時間を寝過ごしてしまうのは必定。今日は、開店から閉店まで飲みつづける日と決めている雪路さんは、眠るわけにはいきません。
 なので、酔いざましと眠気ざましを兼ねて、音楽を聴くことにしました。
 学生時代にコピーしまくった思いでのロックナンバーのカセットをセットして、スタートボタンをポチリ。
 その瞬間、胸に迫るギター、第二の心臓のように血を動かしていくドラム、深く深く染み込んでいくベース、投げやり気味のタンバリン(薫先生のパートでした)、そしてなにより熱く踊るように音階を刻んでいくボーカルの歌声、は聞こえませんでした。壊れてたから。
 そこにフラリと現れたのは、「先輩と慕ってくれてるんだけど上司じゃん、お前。しかも上司なのに、奢ってくれないし。日本にはノミニケーションっていう美しい日本語があるのを知らないの? はっ、これだから外国かぶれのエリートさんはさあ」、という雪路さんにとって微妙なポジションにいる後輩・牧村さんです。むせるような炎の匂いを纏っているところを見ると、先ほどの爆煙の原因は牧村さんのようでしたが、まあいつものことです。
 カセットプレーヤーが壊れていることを話すと、なんと、自分が修理すると言い出したのです。
 持つべきものは可愛い後輩です。
 が、自分も壊れたプレーヤーを持っている。そう言い始めた牧村さんに、雪路さんは若干不安を覚えました。二個とも壊れてるんですから、それが二つあっても意味がありません。せめて、一つ無事なら、雪路さんがそれを貰って話はすみますが。
 しかし、牧村さんは天才でした。
 二つのプレーヤーを分解すると、雪路さんのプレーヤーの壊れた部品を、牧村さんのプレーヤーの壊れていない部品と交換する、ニコイチで雪路さんのプレーヤーを修理してくれたのです。
 こうして、雪路さんの牧村さん評が「上司で後輩。後輩で上司。出世する責任はいらないけど給料は欲しい。ていうか、奢れ」から「天才。ていうか現人神?」にジャンプアップしたのでした。
 ですが、そんな天才さんも白皇での学生時代には、単独で成績が一位になったことはないと言うのです。
 信じがたいことですが、牧村さんによれば、同学年に本物の天才がいたとかで――。





 大体、七年前。
 白皇・生徒会長室に緊急自体だと飛びこんできたのは、若き日の牧村さん。
 迎えたのは、高校生というには相当小さな少女、というよりは女の子。ちびっ子ですが、落ち着き払った態度が生徒会長という肩書きに負けない風格を醸し出しています。
 そんな会長が読んでいたのは、ポリネシア語のゲーム雑誌。
 「これが全員十点満点ねー。まっ■の出した大作だからねー」と、レビューの採点を採点中という、重要極まりない課題を抱えていましたが、心優しきちびっ子会長は、それを中断して牧村さんの持ちこんだ事件の解決にあたることにしました。
 牧村さんの持ちこんだ事件も、相当に重大な事件でした。
 外が寒いのです。雪が降っていて。
 ――このままでは風邪をひいてしまう。風邪は万病の元、インフルエンザにでもかかろうものなら体温三九℃以上の恐れも。
 が、牧村さんの不安も、すぐに解消されました。
 それは選び抜かれ磨き抜かれた知性のみが放てる、眩いばかりの輝きでした。
 なんと、おこたを出したのです。
 おこたを出すという発想も、常軌を逸した才覚のみがなしうる発想でしたが、「こたつ」ではなく「おこた」と呼ぶ言語センスにおいても、ちびっ子会長は他に比肩しうる者がいない存在なのでした。
 そんな、ちびっ子会長を頂く白皇は当然今日も平和でした。
 牧村さんは、そんなちびっ子生徒会長の凄さを改めて実感します。
 十歳なのに飛び級で高校生、勉強も運動も大得意、一年生で生徒会長。おまけに、抱きしめて頬擦りしたいぐらいにかわいい、という犯罪的な存在です。始めて授業を受けたとき、机が大きすぎて、まるでしがみつくように授業を受けたこともありましたが、それもまた可愛いと大評判。学食では、その姿を模した「ちびっ子パン(DHAたっぷりマグロ入り)」が売り出され一大ヒット商品になるほどのちびっ子フィーバーぶりでした。
 ですが、ちびっ子会長は、ちびっ子と言われることが少しイヤでした。少し背伸びしたいお年頃だったのです。なので、自分の名前、マリアと呼んでくれる様に牧村さんにお願いしました。
 それに応えた牧村さんは、マリアさんのことを「ちびっ子マリアちゃん」と呼びました。ちびっ子は譲れなかったみたいです。
 不満そうな様子もまたかわいいロリアさん。
 そんなロリアさんのために、なんと牧村さんは部活を作っていました。
 その名も「動画研究部」。ロリアさんの成長記録を作るための部活です。ちびっ子フィーバーの中でも特に熱い男子の需要に応えるための部活でもあります。犯罪の匂いがプンプンしますが。
 そして、ロリアさんのために、牧村さんの撮った秘蔵映像が本邦初公開となりました。
 「風のイタズラ」「マリア~十歳の背伸び~」「砂浜の天使」「ドジッ子リボン」の、四本のショートムービーです。
 珠玉の短編ばかり。人類の宝でしたが、そのとき悲劇が起こってしまいました。ロリアさんの手がすべってしまったのです。そして優秀なはずの日本の電化製品が不幸にも、ちょっとした衝撃で壊れてしまったのです。おそらくは、牧村さんはパチモンを掴まされてしまったのでしょう。
 動画はダメと恥ずかしがるロリアさん。牧村さんは、なら音声からと提案し、ロリアさんから許可を得ました。
 早速、インタビュー開始です。

「お名前と、年齢言ってくれる?」
「マリア。十歳です」
「好きな食べ物は?」
「えーと……か、カレー?」
「ふーん。かわいいなー」
「そ、そうですか?」
「ちょっと堅いなー。緊張してる?」
「い、いえ別に」
「苦手なものは?」
「えっと、熱いところと……ゴキブリが」
「じゃ、弱いところは?」
「え? えっと、えっと……強いて言うならもう少し身長が欲しいです」
「そうじゃなくて……あっははっ。まあ、いいや。そうなんだー。でも、そのままでもとっても可愛いよ。ところで、はじめて?」
「なにがですか?」

 牧村さんの指が、ロリアさんに触れようとしたところで、邪魔が入りました。彼女自身が開発した介護用ロボ実験体一号です。
 先生からの、そろそろ論文を発表しろという呼び出しでした。一瞬、牧村さんは躊躇いましたが、時間はいつでもあると思いなおし、惜しみつつも生徒会長室を後にすることにしました。
 牧村さんも出ていって、ポツンと一人きりになってしまったロリアさん。
 手持ち無沙汰になったロリアさんの目を惹き付けたのが、いままで録音していたレコーダー。
 ロリアさんは、マイク的なものが好きでした。生徒会長になった理由の一つも、生徒会長なら、マイクで演説ができる、しかもオーディエンス付き、という魅力に負けたからでもありました。
 そんなロリアさんの前に置かれたレコーダー。周囲を見まわし、自分が一人であることを確認すると、スイッチを入れ、喋り出しました。
 まず吹きこんだのは簡単な自己紹介。再生してみると、本当に自分の声がします。仕組みは知っているとはいえ、改めて聞く自分の声に驚くロリアさん。一端、止めて、呼吸を整えます。
 心の中では、「止めたほうがいいんじゃない?」という理性を、なんとも言えない心地よいドキドキ感が打ち負かしました。
 再び、スイッチを入れ、今度は歌を歌い出したのです。

 
 マリアのマ~は~真っ赤な誓い~♪
 主に返り血~ ブチマケロ~♪
 パピヨンパピヨン 蝶サイコ~♪ 

 マリアのリ~はリスペクトのリ~♪
 弟子は売れない頃師匠師匠~ 師匠は弟子売れてから弟子弟子~♪
 程よく冷えてリスペクト~ 仲良きことは美しきかな~♪

 マリアのア~はアバンテのア~♪
 ミニ四ポケモンベーゴマ コロコロ商法~♪
 ほんとはスーパーカー世代 ボンボン派~♪


 気分よく歌い終え、さて今度は民俗学のフィールドワークで、人のよさそうなおばあちゃんから教えてもらった、その地方で行われているお祭りのことを歌った歌(ワイカというそうです)を吹きこもうとした、そのときです。
 なんと牧村さんが退き返してきたのです。そして、また偶然にも再びロリアさんの手が滑りました。そして驚くべきことに再び、ちょっとした衝撃で機械が壊れてしまいました。牧村さんのパチモンを掴んでしまう運のなさにも困ったものです。



 そんな思い出の詰まったテープレコーダーでしたが、牧村さんはすっかりそのことを忘れていました。
 なにせ、音声許可を足がかりになし崩しに動画撮影の許可も認めさせ、ロリアさんがマリアさんに代わっていく過程をたっぷりと撮影していたのですから。ただ、没収されてしまいましたが。
 ですが、雪路さんはテープに興味を示しました。なにせ、謎のテープです。お宝の在り処とかが吹きこまれている可能性もあると思ったのでしょう。
 が、そこにマリアさんが現れました。
 突如現れたマリアさんに驚く「ナギちゃんとこのメイドさん」という響きに、公園とか幼稚園での「タッ君のママ」的な響きを感じ、ピチピチのマリアさんにはちょっと不快でした。
 それはそれとして、マリアさんは白皇に訪れた目標を完遂しました。
 つまり、学校に忘れていたテープを回収したのです。
 一安堵のマリアさんの心中は、雪路さんの好奇心も許容できるぐらいに寛容な気持ちになっていました。
 が、マリアさんの「手がすべるかも」という一言で、雪路さんは何故か断りました。
 心と体の動きが常に一致するわけではない、禁酒失敗五秒の記録を持つ雪路さんにはそのことが十分、身に染みていたのです。


 そんなわけで、無事マリアさんはテープを回収し、ハヤテ君とナギお嬢さまはアリバイ出演に成功したのでした。



会長はメイド様! 1 (1) (花とゆめCOMICS)会長はメイド様! 1 (1) (花とゆめCOMICS)
(2006/09/05)
藤原 ヒロ

商品詳細を見る












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/437-06650ae3

ハヤテのごとく! 第160話感想「美幼女」
 美幼女マリアさんの祭典、ここに開幕。 そんなハヤテのごとく!の第160話「寒い冬のこたつ最強」の感想です。 ・・・何故マリアさんが...

2008.01.23 23:58 | ゲームの戯言+α

今週のハヤテのごとく!160話@マリアさん怖いよ!
本題に入る前に・・・ 今週のサンデーのクエスチョンは感動した風景・景色です 私の場合それは忘れもしない2005年6月。某甲子園に何度...

2008.01.23 23:59 | 蒼のごとく!

ハヤテのごとく! 160話
 このしおらしい紫穂たんに手を出したら人生終わっちゃうんでしょうか(´・ω・`)

2008.01.24 02:11 | くるくるばたばた

ハヤテのごとく!160話【寒い冬のこたつ最強】畑健二郎
こたつとは、客を招いてもてなしする道具でもあれば、 文章を練ったり、絵を描いたり、刺繍をしたりする道具でもある。 そんなお上品でおっとりとした、雅やかなものである。 こたつとはトラップである。 一つの家具が他の家具を打ち倒す、万能の廃人製造機なのであ...

2008.01.24 12:43 | 360度の方針転換

連載160話にマリアさんビーム。
だいたい7年前のある日。 大事件がボッパツしていて、とっても大変なのでした。 と、いうわけで副会長の牧村さん、大好きなマリア...

2008.01.26 03:01 | 神聖マリアさんビーム