しっぽきり

(この記事は少年サンデー六号のネタバレを含みます)
 ある晴れた朝、日比野家から一人の女の子が飛び出しました。
 女の子の名前は日比野文さん。この春から、ずっと目指していた白皇学院の一年生になったばかりの一五歳です。
 見上げる純白の時計塔、広い校内、おとぎの国のお城みたいな校舎。
 これから、ここから始まる新しい生活に、戦慄を禁じえない文さん。
 『美しいものにこそ、汚物は潜んでいる』
 尊敬する祖父はそう語っていました。
 人為的に作られた金持ちたちの楽園。そう、たしかに楽園なのかもしれません。警察や司法も手出しできない、犯罪の理想郷。
 それが白皇学院です。
 レンガ造りの道を歩く文さんは笑顔でした。
 『悪魔は笑って近づいてくるもの』
 尊敬する祖父はそう語っていました。
 ――ならば、自分は悪魔を狩る悪魔にもなってみせよう。
 そう、全ての野望という名の童話を終わらせることこそ、文さんが自分に課した使命でした。
 希望に胸躍らせる新入生という微笑みの仮面をかぶり、あらゆる犯罪の種を見とおすため、眼光鋭く校内を観察する文さん。そんな文さんの瞳に、一人の不審人物が映りました。
 木の上でネコを抱いて、足を震わせる少女。
 フミさんは、少女に近づくと、こう言いました。
 「パンツ丸見え」
 ファーストコンタクトにしては、不用意に見える発言でしたが、文さんにはしっかりとした推測と、計算がありました。
 入学前から極秘裏に、白皇近くの駄菓子屋に潜入し、かき集めた情報。旧校舎に幽霊が出る、滑らかに動き回り人間と会話すら行えるロボットを目撃した、消えては現れ、現れては消える和服の少女がいる。入学後にも、高尾山で巨大熊と戦った生徒がいる、という情報も入手しました。
 不注意な一般人なら、ただのデマと一笑に付すところですが、文さんはこれらの都市伝説めいた情報に潜んだ一つの真実を見出していました。
 ――白皇には、ドラッグが蔓延している。
 そう、これらの噂は全て、覚醒剤によって生徒達が見た幻覚だったのです。
 白皇学院を支配する犯罪組織が、資金源として、ドラッグを売りさばいていることを想像するのは容易なこと、むしろ売りさばいていないほうが不自然。
 文さんは、目の前の少女もドラッグを使用し、そのために錯乱し、木登りをしているのではないかと疑ったのです。
 そして、パンツ丸見え、という言葉。ドラッグを使用していないのなら、羞恥心を刺激され、なんらかの反応を示すはず。
 はたして、少女の反応は、スパッツだから平気という、多少強引ではあるものの、通常の反応のように見えました。
 続いて、文さんは少女が木登りした目的を尋ねます。
 正気で木登りをするような、おそらくは白皇を牛耳る組織の下っ端の構成員とはいえ、犯罪の現場で活動している者しか得られない情報を持っているのではと、期待していたのです。
 重ねて問う内に、少女は真相を語り始めました。
 高いところに登って下りられなくなった、ネコを助けようと登ったけど、自分の高いところが苦手だから下りられなくなった。
 文さんは唖然としました。
 ――結局、ミイラ取りがミイラになったってことかしら。
 内心、苦笑気味に浮かべた感想でしたが、次の瞬間、文さんは呆然とすることになりました。
 なんと、少女に自分の心の中を見ぬかれていたのです。
 「テレパシー開眼……」
 思わず口にしてしまった言葉に、入学前に集めた情報の中にこんな情報があったことを思い出しました。白皇には、不自然な時期に優秀な科学者が転任してきている。
 ――そうか!
 文さんのなかで、点が線として繋がりました。
 白皇は、超能力者をも開発しようとしている。
 少女が判断能力を欠いていたのも、研究による障害が生じていたからなのです。
 文さんは戦慄しました。
 そして、飛び降りるからどいて、という少女を見上げながら、尊敬する祖父の言葉を思い出していました。
 『真に優しくあるためには、ときには冷酷でなくてはならない』
 いつか救わなければいけないとはいえ、今は敵。白皇が開発したエスパーの能力を見ておく必要がある。そう判断した、文さんは冷静でした。
 その場でしゃがみ、目を閉じ、体を丸めたのです。
 実験の副作用なのでしょう。少女は、文さんを散々罵倒した後、木の上から飛び立ちました。
 そのタイミングに合わせて文さんは立ちあがり、少女の落下地点へと移動します。
 体を丸める、ネコの名前を尋ねる。とんだ愚鈍に見えるかもしれませんが、巨悪を滅ぼすためには、身も汚さなければなりません。
 文さんの演出した、思わぬ非常事態に、少女がとった行動は、文さんの肩を台にして、衝突を避ける。
 脅威的な反射神経と、身体能力でした。
 ――肉体強化も受けてるの?
 文さんは戦慄しました。
 が、超人的な能力を受けた代償でしょう。判断力については、やはりイマイチ欠けていたようです。文さんを飛び越した後、繁みに突っ込んでしまったのです。
 ネコを持ち上げたまま、動かない少女。
 文さんの心が揺らぎました。文さんはまだ、一五歳。祖父の言葉という支えがあるとはいえ、冷徹に戦い抜くのは不可能な年齢。
 悪と戦う戦士の仮面が外れた一人の少女が、口にした心配の言葉。 
 と、その瞬間、少女が立ちあがりました。
 そして、文さんに怪我がないことを確かめると、その場を去ろうとします。
 文さんは、少女を呼びとめ、繁みの枝で切って血が流れている頬にバンソウコウを貼りました。
 『悪との戦いのみに、身を染めてはいけないよ』
 尊敬する祖父がそう言ったときの笑顔が、文さんは一番好きでした。
 自分の冷酷さが正しい冷酷さだったのかどうなのか、文さんは自信が持てませんでした。
 が、そんな文さんを少女は、迷惑ではないと笑ってくれました。
 瞬間、緩む心。ですが、安堵はそう長く続きません。
 初対面だったはずの少女が自分の名前を口にし、去っていったのです。
 ――なっ? どう……し……て?
 一つの結論に思い当たり、文さんは戦慄しました。
 自分が、白皇に潜入し、悪を叩き潰そうとしていることは、既に敵に知れ渡っているのではないか。
 正体がばれないように、完璧な捜査を行っていた自信が揺らぎました。
 が、これ以上、この場に留まっているわけにもいきません。
 正体がばれているかもしれないとはいえ、授業をサボるようなことになってしまっては、白皇の生徒として、巨悪を叩き潰すという目的も果たせなくなってしまいます。
 警戒心を募らせ、教室に移動しようとした文さんは一人の少女を目撃しました。
 まるでお姫さまみたいな、可愛らしい少女。
 ですが、すぐに違和感を覚えます。
 どう見ても、少女は自分より年下。
 そう、こんなところには居てはいけないのです。
 が、文さんはすぐに真実を見ぬきました。
 ――可愛そうに。肉体強化の副作用で、成長が止まってしまったのね。
 体にかかる負担も相当なものなのでしょう。疲れ果てて寝ています。
 ――起こして事情を聞かなければ。
 文さんはフランスパンを取りだし、少女の頭に乗せ、鳩を近づけました。
 『朝は、鳥とフランスパンで始めるに尽きる』
 尊敬する祖父はそう言っていました。
 が、少女はあっさりと目を覚ましました。
 授業に出たくないから。そう、少女は、ベンチで眠っていたことを説明しました。
 授業とは、おそらく訓練のこと。
 そういえば、肉体強化のための投薬を受けた被験者である少女が、一人こんなところにいるのもおかしな話です。
 ――つまり、薬で体をボロボロにされ、見捨てられたんだ……。
 いたましい表情を浮かべる文さんを、三千院ナギと名乗った少女は否定しました。
 自分の凄さを証明するため、ハヤテと、一人の少年を呼び出しました。
 文さんは、呼び出されたハヤテの正体を看破しました。
 投薬によって不安定になる精神を安定させるために、ナギの心をケアする少年。それが、ハヤテなのでしょう。執事服を着ているのは、ナギに、自分が執事に世話されるような特別な人間と思わせることが目的なのでしょう。ナギが偉そうな態度をとったことも、これで説明できます。
 そんな呼び出された少年が、口にした言葉。
 ナギは巨乳。
 なんということでしょう。この少年も壊れていたのです。
 ナギを担当する精神的負担が、ドラッグの道に走らせたのかもしれません。
 文さんは、この日、白皇の深い闇の一端に触れたのでした。












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