しっぽきり

 はぁはぁはぁと色っぽい吐息を洩らす体温三八.九度の少年執事。
そんな彼がいくらひ弱なんだと主張してみても数時間にわたってズブ濡れの人間の帰宅を許さなかっとあっては、お嬢さまの非は否めません。
 心の隙間に自由に侵入し、不幸を生じさせていく伊澄さんは、いつのまにかキッチンにも侵入し、ミルクセーキを作り、ハヤテ君に好感を与えるとともに、「責任は自分にある、止めを刺したのはナギだけど」「女の子だから料理は上手、下手なのも一名いるけど」と幼馴染の傷口に確実に塩をなすりこむのでした。
 ゴクゴクゴクとあっという間に、しかも美味しそうにミルクセーキを飲み干した少年執事。
 そんないかにも満足した表情を浮かべる彼と、自分の性格を知り尽くしているマリアさん・伊澄さんの前では、難しい言葉で屁理屈を捏ね繰り回してみてもお嬢さまの劣勢は否めません。
 なので、お嬢さまはその劣勢をチャラにするため一発勝負に出ます。
 おかゆ作ってやんよ。
 室内に不穏な空気を残しつつ、不安げな虎を引き連れお嬢さまはキッチンへと駆け出すのでした。
 ドッドキドゴガギョと不安でカオスな心音をたてる少年執事。 そんな彼に食べさせるおかゆを作るため勇躍キッチンに辿り着いたものの、家事はマリアさんとハヤテ君に任せっきり、料理なんてまともにしたことのないお嬢さまの知識不足は否めません。
 が、そこはさすがまんが道を志すお嬢さま。クリエィティビティが止まりません。
 「カカカカッ!」と狂ったように笑いながら投入するのは酢、油、オリーブオイル、コンデンスミルク、そして他の風味を吹き飛ばすほどの量のママレモン。
 空前絶後のおかゆがここに誕生しました。虎一匹を生贄に。
 コツリコツリと足音を鳴らして廊下を行くマリアさんに天然ジゴロ属性を看破されつつある少年執事。
 そんな彼に差し出された一見すると普通のおかゆ、ですが舌に触れた瞬間にどこか遠い所に意識を飛ばしそうな刺激を味覚に与えてくれるそれが、お嬢さまの料理の腕前を表していることは否めません。
 まぁ、つまり美味いとか不味いとか以前の問題だったのです。
 ママレモンママレモンママレモン。震える手で何度おかゆを掬ってみても、その芳香は変わりません。
 が、不安そうに自分を見つめる少女に「こんなもの食えるか!」とは言えません。それに、借金している上に被雇用者という現在の立場上それ言っちゃうと、人生おしまいです。
 限りない優しさとちょっとした打算で少年執事の通した意地。それは四文字の言葉をひたすら口にし続け、ずん胴鍋一杯のおかゆを平らげつづけることでした。
 ピクリピクリと時たま痙攣する胃を気にしつつ、畳み掛けるような不幸の嵐が、キラリと光る飛行石のせいだとは露知らずおかゆ完食という偉業を果たした己を自画自賛する少年執事。
 そんな彼に、マリアさんが話しかけてきました。
 マリアさんの話によれば、おかゆにはママレモンが入っていたとのことでした。
 はっきり気づいてはいましたが、できれば聞きたくありませんでした。せめて、人間の食べるものを足していった結果としてああいった物が生まれたのだと信じていたかったハヤテ君。
 ですが、呆れ気味に自分を見つめるメイドさんに「こうなることが予想できてたんちゃうんか! おお!?」とは詰め寄れません。それを言っちゃうと人生どころか生命が終わっちゃいそうです、割と瞬時に。
 とはいっても予感がしただけで、実際にはそんなことは起こりえないことですし、それにおかゆは信じられない味でしたが、お嬢さまが料理を作ってくれたことが、看病してくれたことがハヤテ君は嬉しかったのです。ハヤテ君のお母さんは看病なんてしてくれなかったので。 熱い体にほのかな温かみを抱いて、マリアさんにおやすみの挨拶を交わしたハヤテ君は眠りにつくのでした。  スヤスヤと寝息をたてる少年執事。
 そんな彼とマリアさんの会話を一部始終聞いていたお嬢さま。
 自分の料理が不味かったこと、そんな料理を食べさせられたのにハヤテ君が嬉しかったと言ってくれたこと。申し訳無さと、そしてハヤテ君への思いでお嬢さまの胸は一杯になりました。 せめてもの感謝として、ハヤテ君の寝顔にキスをするために近づいていきます。
 胸の高鳴りを抑えて、そっと顔を近づいていくお嬢さま。 が、そこは空気を読めないハヤテ君。もう一秒か二秒か待てばいいのにあっさりと目覚め、あまつさえ「顔を近づけられると寝づらい」とまで言ってしまいました。
 その後はお決まりのパターン。
 ののしられ、花瓶を投げつけられ。
 そんな強暴な物音に、マリアさんの人の良さと寿命の短さの相関関係を改めて認識し、さて自分はどうだろうと思いを馳せるのでした。 












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2007.12.09 00:40 | 360度の方針転換