しっぽきり

 十一月十日は、雪路さんの誕生日ということで。お祝いになるかどうかは別として、雪路さんメイン回だった八十六話の感想を。
 雪路さんはお悩みのご様子でした。
 きっかけは、数分程前。
 雪路さんを信頼してやまない後輩教師・牧村さんに相談をされたからです。
 雪路さんが牧村さんの相談を先輩教師として受けるのはいつものことなのですが、問題はその相談の中身でした。教育、生徒のことについてなら、二十三区計画も始まり昏迷する教育界を白皇教師として生きる雪路さん。自らの持論を勢いででっち上げ、立て板に水、舌先三寸、嘘八百、言葉巧みにいくらでもアドバイスが可能、特に居酒屋では、店から追い出されるまでマシンガントークを続けられます。グイグイ杯を干しつつ。
 ですが、今回、東京都にお住まいの牧村さんから寄せられた相談は、まったく別のことでした。
 ――同棲している彼氏が優しすぎる。
 これは困りました。
 雪路さんは、ここ数年は教育の道に身を捧げてきました。心は酒に捧げてきましたが。
 とにかく、そんなわけで専門分野外の相談に困惑してしまいましたが、そこは先輩教師の威厳もあります。借金返済時代に身に付けた、よく回る口で押し切りました。
 
 そこはそれで凌ぎきりましたが、悩みは残ってしまいます。
 彼氏のことです。
 ここ数年は、激動の人生をアルコール漬けにしてきた雪路さんには、彼氏のことなんて考えたことがありませんでした。
 雪路さんが恋愛について思考停止していても、年月は流れていくもの。
 二八歳、彼氏どころか結婚を考えてもいい年です。
 そんなことを悩みながらトボトボと廊下を歩く雪路さんの耳に飛び込んできたのは、妹であるヒナギクさんを称える男子生徒二人の声。
 こっち向いてくれないか。卒業まで一度でも声をかけられたらいい。
 それはもう、なんだか崇拝の領域まで達しそうな勢いで称えています。
 姉妹なのに! 同じ血統なのに! こんなことではいけない! さて、どないすんべぇか。
 一頻り考えた後、雪路さんはあることを決断しました。
 


「で? 次の社交界はどこなの?」

 決意を固めた雪路さんの行動は、まさに即断即決の一言。
 乗りこんだのは三千院家、蹴散らしたSPは五人、お茶請けに要求したのはどうせならと最高級のケーキでしたがこれはスルー、そして求めたのは、社交界への出席でした。追い詰められたら一発大きいのを狙うのが雪路さんの正義。
 スケールの大きい雪路さんのこと、一発大きいのを狙うなら合コンなんて小さなことは言いません。
 いい家の坊ちゃんを捕まえるといえば社交界、社交界といえばお金持ち、お金持ちといえば三千院家。明快で真っ直ぐな思考回路で発した一言でしたが、それを聞いた二人、ハヤテ君とナギお嬢さまは呆れ気味です。ナギお嬢さまには勘違いですがハヤテ君、ハヤテ君は天然ジゴロとして一杯、二人とも相手がいるうえに、なにより若さです。若さゆえの傲慢です。ナギお嬢さまにいたっては雪路さんの二分の一以下の年齢です。
 人生には年齢のみが与えてくれるものがあります。その一つが理解力。雪路さんの熱意が通じたのでしょう、どこからともなく突如として現れたカイゼル髭が社交界にゴーサインを出してくれました。
 戦場へと向かう武者震いに震える雪路さん。そんな雪路さんのアグレッシブさに我が身を省みて動揺するメイドさんがいたような気がしますが、勘違いだったぜ。



 グフのヒートロッドをペキリ、ニューガンダムのフィンファンネルをバキリ、ビームサーベルにむかってときメモのCDで輪投げ。雪路さんの凶行にお茶請けとしてどら焼きを取ってきた薫先生は涙目でしたが、そこは惚れた弱み。何も言えません。別に薫先生のガンプラをいじくりに来た訳ではない、雪路さんが薫先生に持ちかけた相談は、恋愛の心得について。
 薫先生の戦歴は、東に行っては金髪鎧娘さんを落とし、西に向かっては鯛焼き泥棒を攻略し、と向かうところ敵無し、まさに百戦錬磨。モニターの中では。
 ――いくら脳内とはいえ、百人触手達成の経験は聞いておいて損はないはず。
 それが雪路さんの狙いでした。
 二次元ジゴロの渾名を雪路さんから授かった薫先生は、複雑な顔をします。二次元ジゴロの名前が嫌というのもあるのですが、それ以上に大きかったのが、昔から惚れている雪路さんが彼氏を探しているということ。
 ここで、二次元ジゴロは、三次元へと戦いの場を移しました。いえ、移そうとしました。
 が、未遂どまり。
 雪路さんは、薫先生の好意は先刻承知。あんたに興味はないと、バッサリ。
 出鼻をくじかれた薫先生は、それを怒りへと転嫁するしかないのでした。




 狙ったのか狙ってないのか、とにかく不用意な発言をして怒らせてしまった薫先生に放り出された雪路さん。アドバイスを引き出すことに失敗。このまま、初めての社交界まで失敗するわけにはいきません。
 男と女の心得を聞き出せないのなら、せめて社交界そのものについて経験談を聞いておこう。
 向上心溢れる雪路さんが講師に選んだのは、生徒会三人娘。
 駄菓子屋の前にタムロするお嬢さま連中からのアドバイスは、「あんなのダルイだけ」とのこと。なんら参考にはなりそうもありませんが、そこは経験者の一言。重みが違います。その経験者の更なるアドバイスは、「実戦あるのみ」。


 
 そのスパーリングの相手にピックアップされたのが、三千万の屋形車でナギお嬢さまと深夜の人力ドライブに洒落込もうとしていたハヤテ君でした。社交界には不似合いな貧相さですが、相手に贅沢は言ってられません。
 ねるとん時代からの伝統にのっとってハヤテ君から告白という設定でスパーリングはスタート。
 ハヤテ君が告白するのは何故か、いいんちょさんですが、これもまずは経験者の実演を見てからという美希トレーナーの心遣い。
 ハヤテ君の告白への返答は、

「寝言は寝て言え。このビンボー人」

 背後になにか言葉を発したような雪路さんを背負った、いいんちょさんの信じられない一言でしたが、これにもちゃんと理由はありました。「経験者だって失敗はする、だから失敗なんて恐れずに桂ちゃんらしくやってくればいい」と、いいんちょさんは言いたかったのです。
 が、ここでお嬢さまから、本当に彼氏が欲しいのかどうか質問が。
 ここで、雪路さんは我に返ります。
 彼氏なんかいなくとも、自分にはこんなに先生思いの可愛い生徒達がいる、それにドンペリの方が欲しい。
 さらに、ハヤテ君の「桂先生はそのままでも十分魅力的」という一欠けらも感情の篭っていない本音をぶつけられて雪路さんの悩みは氷解したのでした。


 その後、ナギお嬢さま達は海岸でちょっといいムードに、マリアさんは星空を見上げつつ思い悩み、そして雪路さんはせっかくクラウスさんに用意させたのだから参加しなければ申し訳ない、という気遣いから社交界に参加し、どうせ参加したのだから楽しまなければ失礼と存分に楽しみ、世界にはアルコールを飲めない子供がいるのに残すのは勿体無いとアルコールを入るだけ、あるだけ飲み干し、社交界に鮮烈なデビューを果たすと同時に、惜しまれながら引退したのでした。


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第86話「プリティーじゃないウーマン」。
ひどいサブタイトルですが、雪路の魅力がたっぷり詰まったエピソードでした。

この感想は充分、雪路の誕生日記念になったと思います。

2007.11.10 21:33 URL | 六角坊 #- [ 編集 ]

>ひどいサブタイトル

 プリティーじゃないということは、つまりビューティということなんだと思います(`・ω・´)

>この感想は充分、雪路の誕生日記念になったと思います。

 ありがとうございます。
 ユキジストの六角坊さんにそう言っていただけて幸いです。
 コメントありがとうございました。

2007.11.10 22:50 URL | 美尾 #9ayR5QDw [ 編集 ]













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