しっぽきり

一本目 早く扶養家族になりたい……。
二本目 熟練のフィンガーテクニックというお話



『パティ。あなたは幸せ?』

 誰かの問いかける声に、パティさんは怒りました。
 今のパティさんは、昔のパティさんとは違います。
 パティさんには誰かがくれた翼があるのです。
 自分の力で、歩いていけるのです。
 燃料は好きなカップリング。
 考えるところはありますが、それはそれ。ファンタジーです。
 反論する奴の胸ぐらは掴まんばかりに、今の自分を肯定したいパティさん。
 そして、

「起きんかっ!」

 反論してない奴のを掴んだら殴られました。
 突如として返ってきた反撃に周囲を見回すパティさん。そこは、先ほどの霞がかった空間とは違う、薬臭い保健室。いつのまにか、クラスメイト五人。

「……あれ? 私寝てた?」

 どうやら、あれは夢だったようです。保健室に入ってからの記憶がどうにも曖昧で、妙に変な気持ちでしたが、そんなこともあるのかな~などと首を傾げていると、澪さんとカズラさんの反応は寝ていたことへの呆れから、創作ダンスをバックれたことへの糾弾に変わっていました。
 が、そんなつもりは一欠片もなかったパティさんはどこ吹く風。逆に首尾を聞き返します。
 が、二人の反応はいいとも悪いともない、煮えきらない反応でした。まあ、創作ダンスだしなあ、とパティさんも納得でしたが、その考えに同意しないのが一人、というか三体。
 大別すりゃあカテゴリーは一緒に判断されかねない立場だから注意しとくけどさあ、お前等TPOは弁えろよ。そりゃ、思わず反応しちゃうことあるよ? でも、自分から好き好んで進んで披露してどうすんだよ? え? 分かる? 世間はそこまで無条件に優しくはないぞ? おお? 的な感想を、拗ねるティムさんに思うパティさん。
 澪さんが「お前は黙ってろ!!」と一喝して黙らせると、カズラさんが話を変えました。

「結局、応援の話も来なかったね」

 澪さんの見解は、

「バベルはお役所だし、さすがにムリだったんでしょ!
 なんせむこうは超度七のお嬢さま。国の宝だもんね。こっちはチンピラの野良エスパー」

 と、諦観を含んだ冷淡なものでした。
 が、

「いや……そんな風には誰も思ってない」

 光学迷彩のスイッチを切って姿を現したバレットさんが否定しました。

「少なくとも局長や皆本さん、それに「チルドレン」は……ね」

 言葉を継いだティムさんが、その証拠とばかりに、こんな計画を公開しました。

「非常時の備えに、お前らのデコイも製作を依頼されたよ。非公式に応援を要請することがあるかもって」

 パティさんが見回すと、澪さんは満更でもなさそう。カズラさんは、自分達そっくりの人形が動き回るということに、若干引いていました。
 
「ただ、技術的に問題があるんだ」

 指を立てて、ティムさんはそのプロジェクトの問題点をあげました。

「一度に五人以上コントロールすんのはかなりキツイ!!! それさえできれば例のダンスも!!」

 あのダンスは五人で踊ることがもはやしきたり。それができないのなら、ハレハレピーンチじゃない、最早おれはハルハルピーンチ
だ。そう悔しがるティムさんの情熱に、

「いや、もういいよムリすんな」

 澪さんは心配し、

「ウチにもそーゆーの得意な人いるから今度頼んでみるよ」

 カズラさんは提案するのでした。
 その時でした。

「誰か来た……!」

 足音を聞きつけたパティさんが知らせると、バレットさんが姿を消し、一同会話を止めました。
 やってきたのは、

「遅れてごめん……!」

 同じ班のちさとさんでした。
 そして、程なくして、悠理さんが目を覚ましました。



「よかった顔色良さそうね……」

 まず聞こえたのはちさとちゃんの声。

「目が覚めたかな?」
 
 紫穂ちゃんの声。
 息を吸い込むと、薬の臭い。
 目を開くと、皆の心配そうな顔。
 私、体育館で、それで、気持ちが悪くて……あれ?

「……!! ごめん、みんな! あたし……」

 そうだ、保健室に連れてきてもらって、そのまま寝ちゃったんだ。
 慌てて布団をはねのけて体を起こす。
 
「いーから寝てなよ」

 そう言ってくれる、澪ちゃんに、頷くカズラちゃんとちさとちゃん。
 ゆっくり、視線を巡らせていくと、私の視線に怪訝そうな顔をする、パティと三人、そして。
 ああ、そうだ。
 
「ど、どうしたの!? 悠理ちゃん!?」

 ちさとちゃんが、皆が驚く。

「あれ……? どうしたんだろ……?」

 私は泣いていた。
 なんだろう?
 悲しい。悲しくて、悔しい。
 涙が止まらない。
 ああ、そうだ。
 
「ごめん……みんな」

 謝らなきゃいけない。

「本当に……ごめんね」

 彼女に、彼等に。
 
「ごめんなさい……!!」

 心からの言葉で。







「失態でした!!」

 反省の言葉とともにMRIから吐き出されたのは、皆本さんでした。
 反省の理由は、もちろんフェザーさんに体を乗っ取られたこと。一歩間違えば、チルドレンを危険な状態にしかねない失態に、チルドレン第一の局長はブチギレ中です。

「キミそーゆうの多いヨ!?」

 圧倒的な真実に反論できない皆本さん。 朧さんは、無事だったから、と慰めてくれますが、それがむしろ辛い状況です。
 そこに救い舟を出してくれたのは持つべきものは友というべきか、賢木先生でした。
 なんでも、超能力攻撃への耐性が強い皆本さんだからこそフェザーさんに対抗でき、無事に済んだんだとか。そして、その耐性は、

「常日頃から俺たちっが、きたえてやったおかげだネ」
「ね」
「ね」
「ね」

 反論できない皆本さん。

「ありがとうよ!! 助かったよホント!!」

 とりあえずお礼を言ってはみましたが、そこに怒りの感情が混ざってたのは否定しようがありませんでした。
 それはそれとするために、皆本さんは、紫穂さんを誉めました。

「にしても、よく気づいてくれたな、紫穂」
「まーね」

 頷いて、紫穂さんは、なにやら考え込むのでした。








「よし、こっちへ」

 ナイさんを退散させるブーストの代償として、気絶してしまった薫さんを皆本さんの両腕へとテレポートさせる皆本さんの中のフェザーさん。
 そして、残る二人の無事を確認すると、残りの爆弾を処理するように指示しました。場所を探すサイコメトリーに、処理するテレポート。薫さん抜きの分、能率は落ちるかもしれませんが、十分に事態に対応できます。

「……了解」
「その状態の薫ちゃんをよろしくね」

 視線と、言葉。何が含まれているのか露骨な二つを残して、二人は去っていきました。
 そんな二人をかわいいなと見送ると、腕の中の薫さんへと視線を落としました。
 肌には届いていないものを胸元をざっくりと切られ、疲労の色が濃い薫さんの顔に、よくがんばったわね、と心中で労いの言葉をかけるフェザーさん。
 すると、

『……どういうつもりだ!?』

 その心中で、皆本さんの声がしました。
 もう意識を取り戻したの? 再びの復帰の早さに驚くやら、呆れるやらのフェザーさん。そんなこともあってか、とりあえずからかってみたくなりました。

『なによ? 自分で抱っこしたかった?』
『ふ、ふざけるな!! いったい何が目的なんだ!?』

 効果は覿面だったようで、慌て声。

『あのときお前はすでにブーストさせるつもりだった。単純にジャマをしようとしたわけじゃないな?』

 ですが、いつまでも慌てているような彼でもありませんし、そうしている時間もそれほど十分にあるわけではありません。

『そうよ。任務の妨害がしたかったわけじゃないの』
 
 ですから、真面目に答えることにしました。

『そうねちょっと……ゆさぶりをかけたかっただけ。ファントムとミラージュ。特にミラージュにね。
 でも、もう退散するから心配しないで。以前渡さなかった方のイヤリングをここに仕込んでおいたのよ』

 ズボンのポケットから、イヤリングを取り出し、ゆっくりと回してみせました。

『私はこれに宿って消えるってわけ』

 そして、

『これからこいつを隠すから、それが済むまでは眠ってて』

 皆本さんの意識を再び叩きのめしました。
 ここまでは、フェザーさんの計画は順調に進んでいました。
 が、数分後。
 体には、ワイヤーが絡んでました。食い込んでました。
 
「……というわけで、とりあえず撃ってみて、やっぱり皆本さんじゃないと確認した!! 指揮中の態度とかおかしいと思ってたのよ!!」

 撃たれて、確認されていました。皆本さんが、デリンジャーを紫穂さんから取り上げていて安心しましたが、それでも割と痛いもので。

「ポケットにイヤリングて……めっちゃカンにさわるわ、この女!!」

 ついでに隠すはずだったイヤリングまで発見されていました。浮気を発見した奥さんみたいに怒る葵さんの罵倒つきで。

「薫ちゃんを預けたのは油断させるためだったのね!? っていうかとりあえず撃ってみないでよ!!」

 見送ったときには、とっくに疑っていた観察力。そして、とりあえずで撃ってくる実行力。

「このイヤリングどうする?」
「触っちゃダメよ! 私たちがとりつかれちゃうかも!」

 そして、判断力。

「やれやれ……」

 フェザーさんは、思い返しました。
 
「かなわないわね、あなたたちには」

 こいつらかわいくないと。
 なので、とりあえず反撃。

「でも良かったでしょ?」
「何が!?」
「だって女同士じゃん。
 ミナモトだったら薫ちゃんの胸元に理性が崩壊してたかも紫穂ちゃんの下着姿にもけっこーこたえてたと思うのよ?
 あいつってば「イヤ僕は何とも思ってません」的に無理してんのよ、実は」

 が、意外なことに、ダメージを受けたのは、

「服!! 服を早く!!」

 目を覚ましたのは薫さんでした。
 必死だから気づかなかったと、周りにか、あるいは自分にか言い訳した後、薫さんはあることに気づきました。

「もしかしてブースト中丸見えだった!? どっからなの!? どの時点からフェザーだったわけ!?」

 頬を紅潮させて、まくし立てる薫さん。

「えーと……」

 フェザーさんがもてあそぶように躊躇ってみせると、

「やっぱいい!! 言わなくていい!!」

 年相応の乙女だけあって、いやいやと首を振り、そんな薫さんに下着露出を喜ばれた紫穂さんは、「あんたね、私に何したよ?」と呆れるのでした。
 その様子にフェザーさんは、やっぱり三人は楽しいと、ほほえむのでした。






 かつてとある受刑者の特殊監房として使われていたホール。
 その中心に位置する巨大な半球の前で不二子さんは、腕を組み、宝石をじっと見つめていました。
 半球の中で、解析にかけられているのは、フェザーさんが宿っているはずのレアメタル。

「やあ、捕まえたね」

 念波が僅かに乱れ、声がしました。
 銀の髪と黒の学ラン。

「こいつがフェザー?」

 この場所のかつての主、兵部京介でした。

「何、当然みたいな顔して入ってきてんのよ!?」

 バベルの最深部と言っていい場所に散歩でもするかのような気軽さで入ってきたことに不二子さんは怒りますが、兵部少佐は飄々としたもの。

「逮捕したってすぐ釈放だし、カタいこと言うなよ。ここは僕の別荘だったし、そうしたのは不二子さんじゃん?」

 と悪びれる様子がありません。
 まったく、思い通りにならない男。
 これ以上、注意するのもバカらしくなりました。

「あんた現場にもいたそうじゃない」

 紫穂さんは言っていました。
 サイコメトリー中に、アドバイスがあったと。
 認める代わりに肩をすくめました。 

「ファントム・ドーター」

 チルドレンの前に幾度も立ちはだかり、邪魔をしてきたエスパー。

「気配はあるんだが、どこにいるのか見えもしない。この僕をまるで赤ん坊あつかい。おそろしいヒュプノの使い手だよ」

 彼女に対する兵部少佐の評価を聞いて、不二子さんは、暗澹とした気分になりました。 分かってはいたものの、兵部少佐にそこまで言わせるエスパー。フェザーという不確定要素と切り分けられたとはいえ、それで悩みが軽減するというものでもありません。

「紫穂ちゃんに警告したってことは……これは私にあずけるのね?」

 今現在、すべきことに意識を切り替え、水を向けると、兵部少佐はこれもあっさりと認めました。

「ああ、共同で調査できればと思ってさ」

 状況から考えて、その言葉を疑うつもりもありませんでしたが、軽い驚きを覚える不二子さん。
 日本国内に活動拠点を移したこと、共同で調査。
 神出鬼没で撹乱し続けてきた彼の行動を考えれば、最近の変化は明らかでした。
 ですが、兵部少佐が口にしたのは、そんな疑問を吹き飛ばすような、いえ、再構築させるような一言でした。
 
「未来が変えられている。やったのはこいつだ」
 
 自分達が道を違えた原因であり結果である未来。
 それは、伊・九号が失われた時点で知る術はなくなった、それを知るものの意識の中で、それを迎えるのか迎えないのか、二者択一の基準である絶対的なものでした。

「だが、どこに向かおうとしているのかがわからない。君もそれは知りたいはずだ」

 けれど、今、兵部少佐は未来が変化していると語っている。変化した未来を見ている。
 兵部京介は、伊・九号以外の余地情報源を持っている。
 不二子さんはそう確信しました。
 ですが、その確信が、兵部少佐が出した尻尾なのか、差し伸べた手なのか、あるいは罠なのか。
 ひどく近い所に立っている、彼の思惑を不二子さんは測りかねるのでした。












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