しっぽきり

一本目 制服にもバベルの技術が惜しげなく使われていたというお話
二本目 自分に与えられた機会を正しく理解したバレットさんの選択というお話




 薫さんに抉り出された土塊が崩落していく中、ナイさんは笑っていました。
 爆弾は一つ、取り除かれました。ですが、ナイさんに焦りはありません。
 この作戦の本質は、爆発ではないのです。
 ブラック・ファントムと、何よりユーリさまの為に。
 大切なのはデータでした。チルドレンのブーストのデータを記録する。その為の、レアメタルは既に、影から飛び出し、

「紫穂!! 葵!! 皆本!! 行くよっ!!」

 薫さんの靴へと飛びつきました。

「ブーストフォーメーション!!」

 言われた通り、簡単な仕事だ。
 ナイさんの笑みは深まるばかりでした。
 彼女たちはブーストを使う。レアメタルはそれを記録し持ち帰る。
 データはユーリさまに届けられて、きっとお役に立つのだろう。きっと笑うに違いない。
 彼女の笑顔を想像して、ナイさんは笑いました。




 薫さんは抉りだした地面に敵の影を見つけたものの、表情を歪めていました。

「く……でも、これじゃ……」

 爆弾を一つ処理し、敵も特定、勝利確定のブーストフォーメーションも組みました。ですが、薫さんは内心焦っていました。
 
「どないした薫」

 その理由はフォーメーション。バランスが悪いのです。配置とかじゃなく、

「あんたも脱ぐんだ葵!!」

 露出的に。葵さんがはぎ取ってくれたスカート上着のおかげで、紫穂さんはパンチラ中。しかも、シャツでそれを隠そうと奮闘する絶妙のチラリズム。だというのに、葵さんは完全着衣。葵さんの努力を痛いほど知っている薫さんとしては、それを発揮する最大のチャンスをみすみす逃してしまうのは、忍びなさが止まりません。なので、バランスをとるように要請し、

「服着せて葵ちゃん!」
「了解」

 それは叶えられました。紫穂さんのゲンコツ一発のおまけ付きで。
 そんなわけでバランスのとれたチルドレン。

「準備完了よ、皆本さん! 完全解禁して!!」

 皆本さんにブースト開始を要請しますが、しかし、皆本さんは動きません。
 いや、動けませんでした。

「皆本はん!? 何してるのん!?」
「皆本!?」

 先の様子もあわせて、皆本さんを心配する三人。
 すると、ようやく、皆本さんが答えました。

「ダメだ! ブーストすると薫のサイコキネシスが使えなくなる。このまま仕留めろ!!」

 その言葉の冷徹さに、いつもの皆本さんから感じない戸惑いを覚える薫さん。ですが、皆本さんは反論を許しません。

「爆弾の数は不明だし、敵もあいつ一人とは限らない。状況がはっきりするまでは完全解禁はできない! 最悪の場合、サイコキネシスで爆発を防ぐ必要がある」

 論拠をスラスラと並べる皆本さん。薫さんはそこに理を認めはしましたが、情は納得できません。
 相手は、自分達が皆本さんと会ったときより小さな子供、そして、ティムさんやバレットさん達がそうだったように、邪悪な力が彼女を縛っているのです。

「あいつけっこう強いで!?」
「ケガさせずに捕まえるのは難しいかも」

 二人も援護射撃しますが、皆本さんの答えはノーでした。

「あいつは敵なんだ。余計なことは考えなくていい!!」

 困惑する三人に、痺れを切らしたように、ナイさんが動き出しました。
 影の中に沈んでいき、飛び出したのは、

「う……うわああッ!? ス、スカートの中からっ!!?」

 薫さんのスカートの影。そして、至近距離から、薫さんに向けて右腕を振るいました。

「そーゆーことしていいのは、あたしだけだこのヘンタイ!!」

 その拳が届く前に、薫さんはサイコキネシスでナイさんを弾き飛ばしました。ナイさんは、柔らかい身のこなしで無事着地。
 拳は、薫さんの体には届いていませんでした。しかし、その拳に装着されたナックルから伸びる爪を思わせる刃物は、薫さんの衣服とブラを割いていました。

「次は君たちの誰かが体を切り裂かれる!! 影から引き離せ!!」

 羞恥と、それ以上に彼女の機動力に恐怖を感じつつ、皆本さんの指示に従う薫さん。
 幸い、完全に姿を消す前に、彼女を捕らえることはできました。

「念波で抵抗してる……手加減してると逃げられちゃうよ」
「なら手加減するな。弱るまで締めつけるんだ」

 促す、皆本さんの中のフェザーさん。
 彼女は、確信していました。ファントムさんが、ミラージュさんが、近くにいることを。
 洗脳が解ければ、同時に埋め込まれた爆弾が爆発する。けれど、一回のブーストでは洗脳は解除されないかもしれない。
 そう自分に言い聞かせているのだろう。フェザーさんは、少し顔をしかめて、彼女の縋るような心境を思いました。
 でもよく考えて。ナイもあなたも、誰かの道具なんかじゃない!!
 その為の時間をフェザーさんは作るつもりでした。




「う……ぐぐっ……」

 ナイの悲鳴と苦しむ様は、物陰からのぞく私にも届いていた。

「もう限界や……」
「皆本さん、ブーストを!!」
「これ以上締め付けるとあの子を殺しちゃう!! ブーストで洗脳を解くしか!! 皆本!!」

 超度七のサイコキネシスに抵抗する高超度エスパー。その念波の凌ぎ合いが子供の体にどれだけの負担を与えるか。それを考えれば、チルドレン達の言葉を疑う余地はない。
 ナイは抵抗をやめないだろう。健気に続けるだろう。そういう子だから、私も。
 ナイの洗脳は、一回のブーストでは解けないかもしれない。爆弾は、爆発しないかもしれない。ブーストのデータさえとれば、大手を振って、いつもの仮面をかぶって、挑発するような物言いを投げかけて、連れ帰れるかもしれない。
 でも、本当に、そうだろうか?
 どちらにせよ、それはブーストが発動してからのこと。彼女達の指揮官は、ブーストを求める声にも、動こうとしない。
 何かが、私の胸に這いよる。

 くっく……かわいそうに、ナイはもうダメみたいね。

 「私」があざ笑う。
 助けるわけにはいかない。ブーストのデータを持ち帰る。私に与えられた使命。
 何より大事な、お父様の意思。
 お人形を使って、お父様の意思に沿う。

「今までだって、私たちはそうやってきた」

 バレットを、ティム・トイを、パティ・クルーを、操ってきた。三人だけではない。その他多くの人形達を、壊してきた。

 北米で戦闘中のスタンドが捕まりました。
 死ねと伝えなさい。
 ゴーストラリアでバンディクーが失敗しました。
 死ねと伝えなさい。
 中国で「眠眠」が
 死ね




 エスパーが全部死にました。




 ファントムがあざ笑う。嘲笑されているのは、ナイではない。私だ。

 お前は……それがイヤだったんだろ?

 本当は気づいているんだろ? 私とお前は別人なんかじゃない。
 お前は自分でお父様に逆らうことができなかった。
 だから私が生まれたんだ。
 認めるのが怖かったんだろう?
 お前はお父様から逃げたいと思ってる。
 なぜならお父様は本当はお前を愛してなんか……

「だ、黙りなさい!!」

 私は、目の前のファントムの、私の首を、締める。

「私は……私は……!」

 そこには、誰もいなかった。
 しばし、呆然として、我に返る。
 自分の外に、自分がいるはずがないのだ。
 わかっていた。
 本当はわかってるわ「ファントム」……!
 
 でも私は、
 人形は、

 お父様を、
 抱き上げてくれた人を、

 捨てられない。
 












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