しっぽきり

「え? あなたは……?」

 赤いスーツ、銀色のメットを被ったヒーローの出現にハヤテ君は戸惑っていました。どこかで見た記憶のあるスーツ。ですが、それを思い出している時間も、

「そんな事よりも早く!! あなたは天王州さんを……助けに来たんでしょ!?」

 正体を問答している時間はありませんでした。とりあえず味方らしいと判断し、お礼を言って駆け出すハヤテ君。その足取りは確かなもの。ヒーローがくれた木刀を握ってからというもの、湧き出す力が止まりません。
 今度こそ、彼女を救う。

「ハヤテさま!! とにかくその……理事長さんを外から取り込もうとしている奴を、とにかくそいつをねじふせて!!」
「わかっていますよ伊澄さん」

 その為に、やることは一つ。

「とにかくこいつを……ぶっとばせばいいんですよね?」

 降り懸かる剣を薙ぎ払い、ハヤテ君は宙に浮かぶ英霊を見上げるのでした。



「でやああああー!!」

 かけ声とともに踏み込み、切りつける。ヒナギクさんの一振り一振りが確実に黒い兵士達の数を減らしていました。
 が、包囲網は一向に薄くなりません。倒しても倒しても、減らない。つまりは、湧いてくる。物言わず、自分に近寄ってくる黒い兵士達。雑魚は自分が、と一手に担ったものの、終わりのない防衛戦を迫られてはたまりません。

「それにしても……こいつらどんだけ出てくんのよ!!」

 すると、それに「上です」と答える声。
 見上げると、声の主は当然伊澄さん。すると、伊澄さん自身も上を見ていました。その視線の先にあったのは、巨大な球体。
 それを破壊しない限り、黒い兵士達は無限に発生するというのです。

「けどあんな高い所にあるものをどうやって……!!」
「それはもちろん、その高いところにのぼって……」

 そう、球体はなにせ、見上げる伊澄さんが更に見上げている所にあるのです。とてもとても、人間の跳躍力では届きませんし、近づく通路もありません。
 ですが、伊澄さんには何か秘策があるようでした。というか、ヒナギクさん自身、薄々気づいてはいました。
 自分は、ついさっきどうやってここに来たのか。

「ヒーローさんたしか……飛べますよね?」

 飛べました。
 正確には、

「それはその無理矢理というかなんというか……!?」

 飛ばされました。高い所があれなヒナギクさん的には、二度と御免被る体験でした。
 けれど、白桜の手応えは、難しい飛行は無理だけど単純な垂直飛びなら行けますぜ? 的な手応え。伊澄さんは、じっと訴えるような目で見つめてきます。
 そして、なにより。
 天王州さんと、ハヤテ君。
 友達と、好きな人。
 二人を助けるためには、他に手はありません。

「あーもぉーわかったわよ!! 白桜!!」

 ヒーローは白桜を掲げ、飛び上がり、

「はぁああああああー!!!」

 雄叫びとともに、正義の剣を振りおろしました。








 ドン

 アテネの街明かりを霞ませる派手な爆発。

「何百匹来ようと!! このオババの敵ではないわー!!」

 叫び声とともに、得意満面縦横無尽に動き回るクナイ付きの鎖。
 そんな光景を見たナギお嬢さまと歩さんの感想は、

「な~んだ、これ特撮だったのか。必死に逃げて損した」
「でもスゴいよねー。超リアルなんじゃないかな!?」

 のんびりとしたものでした。
 ヒーロー役が小さな少女なのが歩さんには不思議でしたが、ナギお嬢さま曰く、そういうギャップこそが新しいんだとか。

「しかしせっかくのヒーローショーならラストに派手な演出が欲しいものだ」

 何気ないナギお嬢さまのつぶやきが、歩さんの耳に引っかかりました。
 ラスト。
 歩さんは、旅行中ずっと気にかかっていることがありました。
 それは「王様の耳はロバの耳」のラスト。
 王様の耳がロバの耳であることを、辛抱たまらなくなって井戸に叫びまくってた床屋さん。ですが、その叫びがどうした拍子か国中に晒されるというお話だったのですが、最後がわかりません。
 そのことを聞いてみると、博識であるところのお嬢さま。ラストを知っていました。

「あいかわらず学のないやつだな」

 と、歩さんをチクリと一刺しした後、語り始めました。

「あの後どうなるかっていうと、まずそのロバの耳の話の前に王様は、神様から触ると」

 が、それを遮る叫び声。

「にぎゃー!!」

 中断し、見てみれば、さっきまで華麗に舞っていたチビッ子さんがダウン。咲夜嬢がなにやら心配そうに駆け寄っています。
 ピンチ演出かな、それにしてもいつ来たかは知らないが乱入とは咲夜の奴も無粋なやつだ。いや、あいつも仕掛け人なのかなと思いつつ、あたりを見回すと、蹴散らしていた怪物達がヒーロー、そして自分達を取り囲んでいます。
 随分と手の込んだことだなと思いつつも、その怪物達の皮膚の質感、息づかいは、奇妙にナギお嬢さまの心をザワツかせました。延びてくる腕に、一瞬、目をつぶるナギお嬢さま。
 すると、どこからか轟音が響きました。
 驚き、瞳を開くと、いつの間にか怪物達は消えていました。
 しばし、呆気にとられた後、ナギお嬢さまは少し落胆しました。
 盛り上げるだけ盛り上げといて、最後がこれか。
 ライブ感を重視した演出で、オチを用意しきれなかったのか。そんな風に納得して、同じように呆気にとられていた歩さんに、さっきの話の続きを始めました。
 
「その王様はな、神様から触ると物を黄金にできる腕をもらったんだ」






 衝撃が巻き起こした粉塵、未だに不規則な落下を続ける球体の破片がたてる音の中で、ヒナギクさんは息も絶え絶えでした。
 一度目の飛行は、あまりに巨大すぎるショックと急な展開に恐怖を受ける余裕すらありませんでしたが、一度目を移動の為の飛行とするなら、二度目は上昇してからの落下。どちらも現実離れしてはいますが、比べれば二度目のほうが現実的で、それだけ恐怖も湧いてくるというもの。

「もう……空なんて飛ばないんだから」

 心底からつぶやくと、ヒナギクさんはようやく立ち上がりました。
 あれだけ周りにいた怪物達の気配はありませんでした。
 が、その代わりにヒナギクさんに近づいてくるものがありました。
 骸骨の巨大な腕。
 虚を突かれ、それでなくとも、疲労したヒナギクさん。交わせる道理がありません。

「キャ!!」

 悲鳴をあげたときには、すでに骸骨の拳の中。

「ヒーローさん!! 大丈夫ですか?」

 同じ拳に握られていた伊澄さんが、問うと、ヒナギクさんが「なんとか……」と力なく頷きました。
 
「けど、こんな風につかまったんじゃ、動く事が……」

 もがくヒナギクさんでしたが、指を振りhどくことはできません。身動きできるだけマシなレベル。
 ですが、彼女を握り込んだことで、英霊の手には僅かな変化が生まれていました。

「いいえ。ヒーローさんのおかげで、左手だけ動かせるようになりました」

 そう言って伊澄さんは携帯電話を取り出しました。
 昨夜からずっと、伊澄さんは自分の無力さに歯噛みしてきました。
 通用しない奥義。逃げるのが精一杯。示せた解決案は、辛い選択肢。更には今さっきの失態。
 目覚めてから、英霊の力の浸透をなんとか防御しつつも、目減りしていく力への焦燥。
 そんな中、思い浮かんだのは基本でした。
 呪術の基本。真名。化け物の真の名前さえ分かれば、なんとか対処できるかもしれない。
 そのための手段が携帯電話でした。
 さっそく、電話をかけ咲夜嬢に尋ねる伊澄さん。ホテルに出現していた怪物達が消滅したのを聞いて安堵はしましたが、時間はありません。説明する伊澄さん。ですが、電話の向こうの咲夜嬢も混乱していました。今の咲夜嬢には調べる方法がありません。
 そして、手がかりもありませんでした。強大な力を使う骸骨。それだけでは、あまりにも漠然としていて、特定などできるものではありません。
 咲夜嬢にそのことを指摘され、考え込む伊澄さん。すると、ヒナギクさんが悲鳴をあげました。

「な、なんかスーツが……どんどん金色に!!」

 見ればたしかに、赤いスーツが金に変色していっています。
 力を使って防御している自分はともかく、ヒナギクさんはそんな力を持っていません。
 伊澄さんは悪寒を感じながらも、それが僅かな好機であることも見逃しませんでした。
 触った物を黄金に変える能力。強力な骸骨よりは特定に近づけましたが、しかし、絞れたとして、それに該当する神話を急に調べることは困難。それは伊澄さんも分かっていました。しかし、一縷の可能性に縋るしかないのです。
 すると、電話から咲夜嬢ではない声が聞こえてきました。

「ミダス王でしょ?」

 救いの手は、

「だから触ったものを黄金に変えるってミダス王の事でしょ?」

 思わぬ所から差し伸べられました。

「やぁあああ!! 待って待って!! 体がどんどん金に!!」
「おやめなさいミダス王の腕」

 伊澄さんは、巨大な骸骨の指に、自身の指を乗せ、念じました。

「あれ? 止まった?」

 真名への直接の呪い。伊澄さんの残り少ない力でも、それで黄金化を止めることは十分でした。
 正解でした。
 そして、

「ハヤテさま!!」

 今夜自分ができる最後の仕事を伊澄さんは始めました。

「もう私にも、力がほとんど残っていませんから……」

 剣を薙払い、ミダス王に近づこうとする執事に呼びかけ、宝具を封印の力と変え、残されたすべての力をそこに足し、

「後はハヤテさまに、まかせます」

 木刀正宗へと、ハヤテ君へと、

「受け取ってください!!」

 託すのでした。













管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/1311-3b15cf90