しっぽきり

一本目 支払いは経費で。
二本目 夢、幻のごとく。



 町中にはパトカーが災害予知のアナウンスを流し、また事前の通知の効果もあってか、貯蔵タンクのエリア内に済む住民の避難は、予定時刻一時間前までに完了していました。

「了解!」

 ダブルフェイスからその旨の報告を受けた皆本さんは、指示を伝えました。
 もちろん指示を出す対象は、

「用意はいいな!? 薫、葵、紫穂!」

「おう!!」
「いつでもええで、皆本はん!」
「久しぶりの解禁、よろしく」

 貯蔵タンクの上で準備万端のチルドレン。
 思えば任務があっても、事情やらがあってご無沙汰だったお決まりのシークエンス。
 
「ザ・チルドレン解禁!!」
 
 も今回はしっかりと決まりました。
 制御のなくなったチルドレンが請け負うのは、搬出が間に合わなかったガスが集められた一号タンクの重点的なチェックと防衛。他のタンクは空ですし、火の気や静電気も全て除去済み。
 そんなわけで、爆発を未然に防ぐための危険要素を探るため、タンクの周りを飛行しながらの紫穂さんのサイコメトリーが始まりました。
 考えられる手は全て打ったという自信が皆本さんにはありました。しかし、予知確率に変化はありません。一体何が残っているのか? 一度総洗いした可能性を再び検討し始めた皆本さん、その影が揺らぎ、膨らみ、一人の少女の形をなしました。
 じゃ、体を借りるわよ、ナイ。
 そして、聞こえた言葉に一瞬躊躇した後、少女は姿を変えました。

「だーれだ!?」
「!!」

 突然に、後ろから手で視界を塞がれ驚く皆本さん。

「なーんてねっ」
「お……お前」

 その手の主は、

「ファントム……いや、フェザー!?」

 塞がれるときに上にずらされた眼鏡抜きでもわかるぐらいに、特徴的なヘルメットをかぶっていました。そして、チルドレンを放っておいて、真っ先に自分のところへ、

「お仕事がんばってるみたいね。一生懸命なミナモトって素敵よ」

 それも親しげに近づいてくるとなれば、皆本さんにはフェザーさん以外考えられませんでした。







「ぢゃーんぢゃーんぢゃらぢゃららぢゃららん!!」

 軽快なBGMの最後の一音にあわせて、KAORUさんはクルッと一回転、その左手は人差し指で天を指し、右手は腰に。左足はつま先上げ。その脇を、AOIさんとSHIHOさんが、薫さんを盛り上げるように両手を前に突き出し、固めました。

「どうっスか!?」

 一踊り終えさせたティムさんは会心の踊りができたと確信していました。チルドレン達と合流する前に、京都で研修を受けていた頃にバレットさんと必死に話し合って完成させていたダンス。その切れ味は、まったく錆び付いていませんでした。
 そんなわけで、澪さん達の反応は、

「ボツ」

 でした。
 見下げ果てた視線に、当然ティムさん操る三体が怒りました。バレットさんも見えないながら怒っていました。ですが反応は変わりません。

「ボツに決まってんでしょ!?」
「わかんない!? 理由言わなきゃわかんない!?」

 ははぁ、あの夏の行軍で潰れたのかヒヨコ兵共かと思いもしましたが、それもどうやら違う様子で、とにかくノーでした。
 そんな様子を端から見ながら、パティさんは、案外詳しいもんだなあと感心。パティさんを理解しようと、彼女が資料用として持っていたDVDを見たのが澪さんとカガリさんの知識ソースだとは思いもしませんでした。

「ったくパティもお前らも、揃いも揃って何で全員そっち系なの!?」

 それはそれとして、呆れがちな澪さんの一言がパティさんの耳をとらえました。

「私たち何かつながりがあるの?」

 チルドレンの代理であるバベルのエスパーと、パンドラのエスパーである自分。エスパーであること以外に、共通点は見いだせません。

「!! あ、いえ、別に」
 
 澪さん達が口ごもり、影武者さん達はパティさん同様に、事情がわからない様子。そんな反応に、訝しむパティさんでしたが、問いつめることはできませでした。

「ちょっと……? 悠理ちゃん!!」

 それを制止したのは、ちさとさんが悠理さんにかけた声。
 心配気なその声に、一同視線を向けると、そこには、顔を真っ赤にして俯く悠理さんと、支えるように彼女の肩を抱くちさとさん。どうやら、悠理さんが体調を崩しているようでした。

「しょーがないなー! すぐ保健室に」

 と、悠理さんをテレポートさせようとする澪さん。

「それは禁止!」

 をカガリさんが手刀でベシ。今の設定の澪さんは超度二のエスパー。そんな長距離のテレポートなんてできません。
 すると、パティさんがちさとさんから悠理さんを受け取り、自分が連れていくと名乗り出ました。
 
「わかった。お願いね、パティ」

 ちさとさんがそう認めれば、澪さん達もそれまでかわされてきた会話の流れ的に、願ってもないところです。
 そんなわけで、パティさんは先生に声をかけて、体育館から出ていきました。やれやれと安心した澪さんとカガリさん。
 でしたが、

「チアリーディングの衣装が着たかったんなら、そう言ってくれればよかったのに。最終回考えればあっちの方が、大人数でも応用できるし。これは一本とられたなあ」

 まだ、一苦労残っているのでした。







「ごめんなさい……」
「いい。気にしないで」

 しきりに弱々しい口調で謝る悠理さんでしたが、パティさんは言葉通り気にしていませんでした。むしろ喜んでさえいました。

「こういうの、まんがやアニメでしか知らなかったし、やってみたかった」

 創作者として、ファンタジーはファンタジーとしても、できる限り現実を知っておくに越したことはありません。体調不良の相棒を医務室に連れていくエピソードがゴッドロボにあったなあとか、週末ブクロに行かないと等と考えていると、悠理さんが足を止め、尋ねてきました。

「あなたは今……しあわせ?」

 急で、あまりにもざっくりとした質問に、少し驚くパティさんでしたが、どこか縋るような彼女の視線に、ゆっくりと、ありのままを答えることにしました。
 パティさんには今までの人生の大半の記憶がありません。
 どうしていたのか、何を感じていたのか、思いだそうにも泥のように不明瞭で漠然とした印象しか浮かびません。
 けれど、

「私は今が好き。人から見たらくだらないかもしれないけど、自分の楽しみを見つけて、それを楽しんでいるもの」

 今のパティさんにはやりたいことがあります。たしかに感じられる感情があります。

「私は今、生きてる。そしてそれが当たり前だと思ってる。これ以上何があるの?」

 だから、今の自分を肯定できました。

「そんなこと思うなんて……昔の私はよほど何もなかったのね」

 少し、自嘲して、パティさんは再び歩き出しました。





 生きる?
 何かをして楽しいと思うとき。
 誰かを大好きだと思うとき。
 誰かを見て悲しいと思うとき。
 それは生きると言うんだろうか。
 生きるって何……?




『ダメ……まだ何もみつからない!! 急がないともう時間がないわ……!』

 携帯から聞こえる紫穂さんの声には、わずかに焦りが感じられました。

『皆本はん!! 他になんかテはないの!? 皆本はん……!? 聞いてる!?』
「あ……ああ……!! 今考えてる!!」

 本当は幾つか試してみたいことはありました。ですが、今はイタズラに状態を動かす時ではありませんでした。そのまま、透視を続けるように指示を出し、皆本さんはチルドレンとの通信を終えました。

「……ありがと。それは……私を信用してくれたと思っていいのかしら?」
「そんなわけないだろう!」

 背後からのフェザーさんの言葉を皆本さんは否定しました。
 未だに正面切って敵対してこないとはいえ、正体不明の高超度のエスパー。何度渡ろうと薄氷の道を、皆本さんはおいそれとは信用できませんでした。

「だが……話を聞こう。今日の予知はお前が関わっているんだな?」

 彼女は無意味に姿を現したことはありません。そして、今回も予知時刻直前に現れたのです。であるのならば、彼女が今回の予知について何らかの情報を持っていることは明らか。加えて、彼女はチルドレンと接触をしようとはしません。ならば、現状を維持したまま、話を聞き出すのがベストだろう。

「そうよ。でもね、」

 そして、皆本さんはその考えが、

「悪いけど今日は、あなたの味方はできないの……!」

 甘かったことを、自身の影に吸い寄せられながら悟るのでした。












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