しっぽきり

 七月一七日タイトル修正
一本目 ポイントは既成事実の積み重ね。
二本目 ポイントは既成事実の抹消。


 
 ひそひそ話、歓声、悲鳴。そのどれもが楽しそうでした。
 それもそのはず、ここは幻の国、デジャヴーランド。
 当テーマパークが誇る、一五年ぐらい前、口汚い言葉で罵りながら恋人をしばき倒したという黒歴史以外は欠点のない完全マスコット、マニー・キャットは今日も、来園してくれたお友達と元気にふれあっていました。

「ハーイ!! 私、マニー・キャットよ」

 クレープを食べる、目を布で少女に、話しかけるマニー。
 ちょっと不思議な雰囲気の子でしたが、今のマニーなら大丈夫。以前のような機械的な対応をするマニーはいません。阿漕な悪徳女にヒドい目にあわされて、マニーとマニーのお友達は学んだのです。相手のことを心底から思いやることが、皆と仲良くなるコツだと。マニュアルにそう書いてありました。
 なので、マニーはこの女の子とも仲良くなる自信がありました。
 ですが、

「ニャー? ニャゴニャゴナー!?」

 猫語で返されるとは思いませんでした。しかも、アクセントがやたらと本格的。それ以外の言葉を話してくれそうにもありません。

「ちゃんと返事して、マニー!! 子供の夢を守るんだ!!」

 と、マニーのお友達の青服着たバイザーさんは言いますが、

「そんなのマニュアルにありません!!」

 そんなわけで女の子がどう思ったかはともかく、マニー自身は彼女の夢を守れないと思うのでした。
 そんなマニーと少女を遠くから見る影が二人。

「なぜ連れてこられたのです? 思い出でも作ってやるおつもりですかな?」

 一人の声は低く太い男性のもの、

「……いけませんか、テオドール?」

 もう一人の声は細く高い少女のものでした。
 
「あれは道具としておあずけしたエスパーです。情をかけると使いづらいのではありませんかね?」

 テオドールと呼ばれた男の声は、質問の形をとった非難でした。
 少女、ユーリさんは遠回しなテオドールさんの言葉が気に食いませんでした。

「余計なお世話です。自分の仕事は心得ていますよ」

 そうはねのけるユーリさん。
 手にしていたクレープを口に運び、飲み込むと説明を始めました。

「空港から近いのであなたのためにここを選んだのです。女の子が一人では不自然なのでナイを連れてきただけ。
 それに、あなたにも連れがあると思っていたわ。まさか一人でくるなんて……」
「……今回の連れは置いてきました。道具が余計な心を持つのは好みません。見た目が子供でも、あれはただの護身用の武器に過ぎませんよ」

 ナイさんを見ながらのテオドールさんの言葉。今回の連れとやらも、子供のようでした。
 ユーリさんは少し目を細めて、そして、それが自分が父親の命令ではじめたことであるのを思い出しました。
 
「さっそくですが、ユーリ様。これが例のものです」

 胸元から小箱を取り出し、ユーリさんに渡しました。
 受け取りはしたものの、すでに薫さんの誕生日は過ぎ、何か口実を見つけないと早々渡せません。

「ありがとう。でも……これをどうやって薫るちゃんに渡そうかしら」
「その心配はもうご無用です。開けてごらんください」

 ですが、テオドールさんはサラリと言ってのけました。言われるがままに、小箱を開くユーリさん。
 すると、そこにあったのは、何の変哲もない宝石、ではありませんでした。
 かすかに動いたかと思うと、持ち上がりました。自分の体から生やした足で。
 まるで甲虫のような宝石にユーリさんは息を呑みました。

「「道具」の中にはそういった細工の得意な者もおりましてね」

 念波に反応してレアメタルが動く仕組みだというのです。宝石を手で遊ばせテオドールさんは言います。

「これを「チルドレン」に取り付かせれば、それでよろしい・ブーストの解明を先延ばしする理由はもう何もないはずですよ、お嬢さま」

 見透かしたような言い口が、選択肢を狭めるやり口がユーリさんの癇に障りました。しかし、言葉に出さず、テオドールさんから宝石を受け取りました。
 
「……ご親切なことね」

 そのまま、テオドールさんは立ち上がり、帽子を取りました。

「では、私はこれで。私もブラック・ファントムさまも、ユーリ様のお戻りをお待ちしております」

 しかし、歩き出そうとして足を止めました。

「あ、そうそう申しそびれておりました」

 いい忘れていたことは、ナイさんのことでした。

「もしブーストでナイの洗脳が解けても、心配はご無用です」

 ティムさん、バレットさん、それにパティさんのような残念なことにはならないというのです。あのユーリさんの理解の範疇を超えたところに行ってしまった三人とは違うと。

「……どういうこと?」

 テオドールさんの言葉にユーリさんは戸惑いました。洗脳が解けてしまえば、記憶を失ってしまう。そして、彼らを再び洗脳し直してきませんでしたし、それを今更やるとも思えません。
 それなら、
 
「我々の元を離れると、あの子は確実に消滅するのです」

 一体何を言っているのか。
 ユーリさんはナイさんに視線をやりました。布で、顔の上半分を巻いた少女。その布のお下をユーリさんは未だに見たことがありません。
 テオドールさんは、額に指を当て、笑いました。

「事前に少々、外科処置を施しておきましたから」
「……!」

 それだけ言い残してテオドールさんは遠ざかっていきました。代わりにユーリさんの側に近づいてきたのはナイさんでした。

「用事はすみましたか? ユーリ様」
「おいでナイ」

 布に手をやるユーリさん。ナイさんが嫌がる様子はありません。この少女は、自分の言うとおりに従ってきました。
 ゆっくりと、押し上げました。
 始めてみる伏せられた瞳。そして、額に刻まれた手術痕。

「ナイ、これは何の手術の跡なの?」
「え? えーと……ぜんとーよーにいんぷらんとがどうとかって……」

 たどたどしい口調でナイさんが言いました。
 インプラント、埋め込み手術。
 ひどく、胸がざわつきました。

「何を埋め込んだの?」
「プラスチック爆弾です、ユーリ様」

 ナイさんがどこか誇らしく微笑みました。
 スラスラ言えたこと、そして何よりそれがユーリさんの役に立てることだと言わんばかりに。
 彼女は、自分の額に埋め込まれた物体が、その存在意義を果たしたときどうなるか知っているのか? いや、知っていたとして、それに何か感じるのか? 
 否定しかない思考は、ユーリさんのナイさんの小さな肩を掴む指に力を込めさせました。
 
「ユーリ様? 何か問題が?」
「……いいえ」
「私、何かミスをしたのでしょうか」
「いいえ。
 お前は……何も悪くないわ」

 そんなやり取りをテオドールさんは見逃していませんでした。
 一人で学校に行かすべきではなかった。冷ややかに思う。
 道具を道具として見られなくなった、道具。

「あのお嬢さまも、道具としてはもう寿命だな」





「では……行きます」

 六中とプリントされた体操着姿の薫さん、澪さん、パティさんが宣言しました。

「さわやかなそよ風!!」

 両手を高々と上げ、音楽に併せてゆっくりと回る薫さん。そして彼女を立てるかのように、周りを衛生のように回る二人。春の暖かな風を思わせる動作。

「と、そこに雨が!!」
「激しい風!! 吹きすさぶ嵐!!」

 宣言と音楽の転調と共に、三人は倒れたりかがんだり、そして激しく回転したり。
 そんな三人を傍観していた四人のうち、紫穂さんとカズラさんが口を開きました。

「創作ダンスって、」
「バカみたい」

 当然、必死こいて考えた結果がおおよそ自覚していたとはいえ、口に出して否定されたんじゃ、薫さん・澪さんも怒らざるをえません。
 が、そこは体育の授業中。

「そこ! マジメにやる!!」

 と、先生から一喝。誰が得するんだこんなイベント的な理不尽さに唸る澪さんですが、それはそれ。約束したからには守るしかありません。

「とにかくもーやるしかないなあ。次考えて次!」
「でもそろそろ時間だし、あとは明日ね……」

 そんなわけで、一生懸命考えて恥をしのんで演じた振り付けは没確定。さらなる理不尽さを感じる澪さんでしたが、理不尽なことはまだありました。
 薫さんが小声で囁いてきたのがそれでした

「ここだけの話、あたしたち三人明日の午後は休むから。あんたたちで進めといてよ」

 サボり宣言ときました。踊りはもちろん、出席しないのですから振り付けも考えはしないでしょう。ズルいと思わざるを得ません。カズラさんは、任務だとフォローしますが、欠席は欠席、ズルさに変わりはありません。

「事件の予知があるのよ。あんたたちが原因じゃないでしょーね?」
 
 紫穂さんの疑問を澪さんは否定しようとしましたが、

「んなわけ……ないよね? 少佐、何か言ってた?」
「さあ、別に」

 否定しきれません。幹部なわけでもない澪さんに、兵部少佐が計画を逐一、話すわけはありませんし、そもそも幹部にすらあんまり話しません。
 それはそれとして、やっぱり不満は消えません。
 どこの誰が起こす事件かは知ったことではありませんし、自分達だけが間抜けなことをする責め苦には耐えられません。
 そんなことをするぐらいなら、

「むしろあたしたちが出動するから! あんたたち残れよ!!」
「無茶ゆーな!」
「まーでも手伝ってもらったら楽かもね。皆本さんに話してみる?」

 そんな感じで八人中の五人がヒソヒソとやってる不自然な状況。これにはさすがのちさとさんも反応しました。

「何? 何の話?」

 が、その反応も、一応義理で反応してみましたけど、否定されれば納得されるんで否定してください的な感じでした。

「いや、別に……」

 そんなわけで、葵さんの一言で解決。そして、会話に加わっていなかったもう一人。

「あれ? 悠理ちゃん……?」

 悠理さんは体育座りで、気だるそうに俯いていました。

「気分でも悪いのん?」
「あ……う、ううん! 別になんでもないよ……!!」

 慌てて顔を上げ、否定する悠理さんに、葵さんは釈然としないものを感じつつも、とりあえず「そう?」と頷くのでした。





「明日の午後、この液化ガス貯蔵施設で、爆発発生の確率が八五%、確率変動値レベル七」

 幾つも連なった巨大な丸タンクが爆発したときに起きる惨状、確率の高さ、そして変動値のレベル。どの要素を考えても、チルドレン達の出番でした。
 もちろんチルドレンを投入すれば、それで解決するわけではありません。確率を一%でも下げるためには、事前の調査を怠るわけにはいかない。そんなわけで、皆本さんは調査能力に優れたダブル・フェイス、そして自衛隊の面々を連れて、予知された現場を調査に訪れていました。

「液化ガス全部の移送は間に合わないそうだ。なんでもいい、事故原因の手がかりだけでも絞り込んでください」
「はッ!!」

 皆本さんの指示を受けて、散っていく隊員達。彼らを、球状のタンクのてっぺんでナイさんは感じていました。
 そして、思うことは一つ。
 自分にご飯をくれた人。自分に頼ってくれた人。自分を気にかけてくれた人。自分と生活をしてくれた人。どれが本当の彼女だったのか、ついぞナイさんには分かりませんでした。けれど、一つ分かっていることがありました。
 ――ユーリ様のために、働くときが来た……!












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