しっぽきり

一本目 保護者も板についたものな兵部少佐
二本目 賢木先生マジいい人。
扉絵  メタな脳みそというお話





「カガリ!!」

 非難の言葉に俺は振り返った。

「俺はパイロキネシスト。炎を操る能力者だ。テレポートで逃げようったってダメだ、ゴッデス。火傷するぞ」

 彼女達の周囲の空気が熱を帯びていく。いや、俺が熱を帯びさせている。何のためか? 言ったとおり、逃がさないための牽制だ。

「集中すれば微弱な予知能力も使えるからな。育ちのいいサラブレッドにレベルで劣っても、雑種には雑種の強みもあるのさ」

 不敵に微笑む俺。自分達が蚊帳の外に置かれている状況に痺れを切らしたのだろう。男達が叫び声を挙げた。

「仲間割れか!? やっちまえ!!」
「根性見せてやる!! 超能力でいつも勝てると思ってんじゃねーぞ!!」
「ちょ……待てよ!! 何もそんなもの持ち出さなくても……」

 事情を知らない東野が慄く。
 しかし、俺に動じる理由はない。

「いや、俺相手には必要だな。お前も下がってろ」

 むしろ途方もなく足りないんだが。右手を握り、奴らの走路へと向けて開く。
 瞬間、太陽よりも強い閃光と、爆音が生まれた。
 奴等の足が止まる。
 俺を勝利を確信し、右手を振り上げる。

「フレームダンス」

 爆発は、火球に生まれ変わり、存分に奴等を翻弄し、朝日の中を踊りまわった。






「……とまあ、そんなカンジで行こうと思ってたんだが、まいったな」

 カッコよく決めるつもりが、現実は厳しいもので、フルボッコでダウン中でした。立ち上がろうにも、鳩尾にもらったせいで足腰がガタガタなのか、顎にもらった一発で脳がガタガタなのか、どうにも立ち上がれません。そして、それはカガリさんの右手で仰向けにダウン中な東野さんも同様でした。

「弱いよお前!? 俺より弱いよ!? なんであんなに強気だったの?!」

 超能力で追っ払うつもりだったから、とは答えられません。そう答えるぐらいなら、フレーム・ダンスからのエターナルフォースブレイズで圧勝してたはずですから。
 そして、問題はこれだけやられても圧倒するはずだった予定のカス野郎二人がまだいることで。

「どーした、エスパー」
「超能力はタマ切れか!?」

 挙句にまだ続けるみたいなのです。
 が、その言葉がカガリさんに火を付けました。別に超能力を使えないんじゃなく、使わないだけなのです。負けん気がカガリさんを立たせました。

「てめーらなんかに超能力は必要ねえっ!! 男ならコブシでこいやーっ!!」

 そして、また倒されました。右フック一発。

「だーらそーしてんじゃんーか!!」

 おまけに冷静なツッコミつきで。

「カガリ!!」
「火野クン!!」
「もうやめて!!」

 そのワンサイドゲームを見守る、薫さん・葵さん・悠理さん・紫穂さんの四人。薫さんがカガリさんの名を叫び、悠理さんは涙目に、そして葵さんも叫びました。もう一人は、抱きついてくる悠理さんを慰め中だったので、特に何も言いませんでした。けして、クラスメイトがボコられるのをどうでもいいわあと思っていたわけではありませんでした。

「火野!! てめ……」

 吹っ飛ばされたカガリさんの敵と、今度は東野さんが立ち上がり、カス野郎の一人に殴り掛かり、

「なんか……これじゃいじめてるみてーじゃん」

 ペンッと張り手一発、軽く吹き飛ばされました。そして、そんな風に軽くあしらえるの、あしらってもあしらってもにしつこく絡んでくる二人に業を煮やしたのでしょう。モジャ髪のカス野郎が足を振り上げました。狙いは再びダウンした東野さんの顎。意識ごと刈り取るつもりでした。が、キックはヒットしませんでした。

「だったらもういいだろ!? やめて!!」

 薫さんが足に飛びついてきたのです。

「あんたらにはわかんないだろうけど、東野とカガリはスゴいよっ!! だからもう……」

 これ以上は許さない。おとなしく帰れ。そう言わんばかりに目の辺りをぬぐい、二人を睨む薫さん。その視線に、カス野郎二人は女子中学生にはない威圧感を感じたじろぎました。
 と、そのときでした。

「コラ……そこっ!!」

 白と黒、そして赤色灯を乗せた車がやってきたのは。
 常に、ご厄介になったりならなかったりの二人はその車のシルエットにもちろん逃走。そして、健全だったり、ちょいと後ろ暗い経歴だったり、むしろ自分たちも国家機関の一員だったりする中学生の一同は、

「よかった……おまわりさ――んっ!?」

 約一人をのぞいて、

「何してるの。バックれるわよ」

 喧嘩をしていた以上、自分達に非がなかろうとつかまれば面倒なことになるのは十分承知なのでした。
 そんなわけで、姿を見せていた全員がすっかり逃走してしまいました。ゆっくりと現場に入ってきた白と黒の車から降りてきたのは、青い服に身を包んだ公務員でした。

「……バッカだなー。制服で身元はバレバレだっての。ガキの浅知恵だぞ」
 
 そう笑うのは賢木先生。

「本物の警官だったら、あとで大目玉だぜ」

 偽者の警官でした。

「サンキュー賢木」

 そして、一人姿を見せたのは、皆本さん。いまやすっかりバベルの標準装備となった特殊光学迷彩服を身にまとい、いざとなったら飛び出せるように事態の推移を見守っていたのです。

「朝っぱらから、こんなことに駆り出して。ひとつ貸しだからな」

 そう軽口を叩く賢木先生。そして、皆本さんに話しかけてきたのは彼だけではありませんでした。
 
「あのコたちエラかったじゃない。あなたの約束を守ってちゃんとガマンしてたじゃん」

 パトカーの助手席から顔をのぞかせたのは、これまた婦警コス楽しそうという原動力で、なんとか早起きという偉業を達成した不二子さん。
 不二子さんはそうは言ってくれますが、皆本さんは複雑な心境でした。

「ええ。でも僕は、何も言われてなければ、間違いなく途中で手を出してました」

 超能力を使わずに子供達は問題を解決できた。皆本さんが思うよりも子供達はずっと強かったのです。

「あの子たちを信じる強さが――僕には足りないような気がします」
「大丈夫、成長するものよ。人も夢も……ね」

 不二子さんが皆本さんに微笑みかけました。

「自分達が学校へ行きたかっただけだったチルドレンが、今は他の子を応援して見守ってる。でしょ?」

 ――学校では超能力を使わない!! 何が起きてもそれ以外の力で解決するんだ! いいね?
 初めて学校に行く前に、皆本さんがチルドレンに言った言葉でした。あの時、皆本さんはチルドレンが自分達の我侭で暴れるのを心配していました。けれど、ほんの数年で彼女達自身がまるで逆の立場に立っているのです。
 時の流れの早さに皆本さんがやや呆然としていると、コツンと、賢木先生が皆本さんの頭を軽く小突きました。

「お前が頼りねーのは、今に始まったこっちゃねーだろ?」

 そうかもしれませんが、面と向かってそう言われるのは腹立たしいものですが、

「俺たちもついてんだ、一人で悩むな。それに、チルドレンをここまで育てたのはお前じゃんか。成長が早いからってヘコんでどーする」

 こう言われるのは、悪い心地ではありませんでした。

「ありが……だっ」

 最後に一発、殴られた以外は。







「大丈夫じゃないわよ!!」

 四人とともに、傷だらけで教室に駆け込んだ東野さんを待っていたのはちさとさんの怒声でした。あと、治療。

「ケンカなんか強くもないくせに……どうして人を呼ばなかったの!?」
「いだだ……あ、いや、痛くねーから騒ぐなって!!」

 強がってみる東野さんですが、ちさとさんはもちろん納得しません。
 そこに助け舟を出したのは薫さんでした。

「東野のおかげでホント助かったんだ」

 しみじみそう言う薫さん。悠理さんにも同意を求めると、悠理さんも本当に感謝しているようで、「本当にありがと」と東野君にお礼。

「べ……別に俺は……」

 謙遜する東野さんですが、葵さん、紫穂さんも東野さんを讃えます。

「私も今日の東野クンはかっこいいと思ったよ」
「せやな。マジでヒーローやったで」

 エスパーのために体を張るノーマルというのは二人のストライクゾーンでした。
 葵さんはともかく、紫穂さんにまで褒められるとは思ってなかった東野さん。ですが、彼の認識では、まず悠理さんを助けようとしていたのはカガリさんです。そのことを指摘してみると、カガリさん本人がそれを否定しました。

「……いや、お前だよ」

 そんなカガリさんの珍しく殊勝な態度に、驚くカズラさん・澪さん、何かを嗅ぎつけるパティさん。
 
「……そーじゃねーよ」

 そこでカガリさんは説明するのを止めました。
 あのカス野郎二人をカガリさんが恐れなかったのは、超能力を持っているから、一蹴できるからでした。無傷で片付けられるなら、怖くもなんともありません。
 それに比べて東野さんは、超能力はおろか、格闘技すらやっていない、何の裏付けもない本当に普通の中学生です。

 ――エスパーがケンカはマズいだろ。俺に代われ。

 その何も持ってない彼が、現実を引き受けようとしたのです。

「俺……明日からずっと電車とバスで通うわ。こいつらと一緒に」

 それなら、自分もそれぐらいはすべきだろう。そう思い、カガリさんは宣言するのでした。
 そして、その言葉は、

「カガリ……?」

 意外さと、

「パティ? どしたの?」
「なんでもないから。私のはファンタジーだから」

 鼻血混じりの興奮と、

「あんた……あんたたち、大好き……!!」

 抱きつかずにはいられないぐらいの愛しさを持って受け入れられるのでした。
 何の力も持たずに立ち上がった守るために東野さんも、彼の意思を汲んで力を使わずに耐え切ったカガリさんも、薫さんの目にはとてもカッコよく映ったのでした。

「やあ、君たちを捜してたんだ。見つかって良かった……!」

 警察を撒いて、近頃のガキ共はと愚痴り続ける二人の目の前に止まった車から現れた少年が口にしたのは、そんな言葉だった。
 学ランを着て肩に小動物を乗せた銀髪の少年。顔見知りでもなく、学校という存在からはさっさと縁を切ってしまった自分達を捜していたというには、あまりに不釣り合いな人間。だが、不釣り合いなのはそれだけではなかった。
 まずは少年がごく自然な動作で降りてきた車。黒のリムジン。少年の体から、普通の学生の臭いが消えた。
 そして、少年の両隣には眼光の鋭い長身長髪の男、そして長髪の男より更に頭一つ高い顔の下半分を包帯で覆った男。少年の体から危険な臭いが湧き出す。

「ウチの若い者が迷惑をかけたこと謝りたくてね。許してくれたまえ」

 軽い口調だった。しかし、少年が言葉を発するだけで、二人が震え上がるには十分だ。

「はぁ!? 誰だ、お前ら?」

 虚勢で出したかすれ声に、長髪の男が聞き咎める。

「お前ら? おい小僧、口のきき方に」
「余計な口出すと射殺すぞ、真木ィィィッ!!!」
「はっ!! 申し訳ありません、若!!」

 長髪の男の威嚇に、その長髪の男を黙らせ頭を下げさせた少年の凄みに、そして場の空気そのものに、二人の虚勢すらも既に砕け散っていた。

「もう二度とあんなことはないと約束する」

 表情を笑みへと戻した少年の声は柔らかだった。だが、出来たばかりの傷をどんなに柔らかく撫ででも痛みしか生まれない。

「その証拠に、おい紅葉」

 少年がパチンと指を鳴らし、振り返る。すると、スラリとした和服の女が包みを乗せた盆を持って現れた。
 直径にすれば三〇cmほどの包みの結び目に女が手をかける。
 スルリ。
 簡単に結び目がほどけ、そして人間の顔が現れた。
 二人は言葉を失った。
 どんな精巧な人形でもありえないほどの、肌のきめ細やかさ、質感。
 生首。
 そして、女が生首を持ち上げ、生首の口が開き、そして閉じた。
 喋った。
 そして、二人は失禁と共に気絶した。




「あれ?」

 そんなわけで、兵部少佐発案のカッコいい落とし前の付け方「制服極道」作戦は大成功。よりにもよって生首役をふられた葉さんは不満でしたが、なにせ事件の発端でもありましたから、拒否もできませんでした。

「二度と学校の周りでゴタゴタを起こすなよ、葉」

 そう注意されて、「アンタにだけは言われたかねーや」とも思いましたが、やっぱり反論はできず。

「わかったけど……なんで?」

 とはいえ、質問ぐらいはしてみたいところ。すると、兵部少佐が眉をひそめました。

「僕らの知らない何者かが、未来に手を加えている。そいつの正体を知りたいから……だ」

 カガリ達に余計なちょっかいを出してる暇はなさそうだな。少佐の口調に葉さんはそう直感するのでした。












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