しっぽきり

 (タイトル差し替えました。)
 お嬢さまのご恩に報いるために。
 そこから先の未来のために。
 ハヤテ君は、彼女を救うと決めました。
 

 そんなわけで、事情を知っている二人の少女と合流したハヤテ君。
 さて、向かおうかいといったところで咲夜嬢が聞きました。

「けど分離ってどうすんのや?」

 それもそのはず、引き剥がせると伊澄さんは言いましたが、その具体的な方法までは聞いていません。
 すると伊澄さんは即答。

「石が壊れた事を知れば合意は崩れ、理事長さんと化け物の魂が離れます」

 そして、その後の仕上げの道具であるところの、鷺ノ宮家に伝わる伝説の宝具である「神のピコピコハンマー」を取り出しました。それで、中の奴を叩き出すんだとか。
 その宝具のデザイン性とかなにやらに色々疑問な咲夜嬢。しかし、そんな咲夜嬢を諭す声。

「なあにじゃが効果はバツグン」

 振り向くと、木の枝に伊澄さんのひいおばあちゃんにして歴戦の老ロリ戦士・鷺ノ宮銀華さんがそこにはいました。
 戦力になることはなるけど、正直忘れていた咲夜嬢は怪訝な顔ですが、どうやら伊澄さんが、マキナさん対策で呼んだとのことでした。
 伊澄さんから、彼女の力を防ぐヘビの化身というところまでは聞いていた銀華さん。ですが、戦いの基本は相手の情報。そのために、伊澄さんからさらなる情報を引きだそうと、どんな奴かと尋ねました。

「そうですね~」

 その質問になんと言ったら良いものか迷う伊澄さん。辺りを見回すと、格好の比較対象がいました。褐色で、執事服な少年。ちょっとばかし傷だらけでしたが、そっくりです。

「ちょうどあんな感じの人で……」

 というか本人でした。
 突如として、目の前にボロボロで現れた強敵に驚く一同。

「ああ!! あなたは」
「あのヘビの子やんか!!」

 そんなヘビの子呼ばわりなマキナさんには、ハヤテ君達へ敵対する意志はありませんでした。
 代わりにあったのは、

「アテネを助けてくれ……」

 依頼でした。
 驚くハヤテ君の前で、

「お前が敵かー!!」

 銀華さんが暴れました。背面鎖プレイで。
 制止する一同ですが、

「とどめー!!」

 銀華さんはかわいいひ孫を傷つけたヘビの子を許しません。クナイをグサリ、鎖でギュウギュウ。
 どうにかこうにか制止はしたものの、マキナさんは木の枝に鎖で吊され、グロッキー。
 そんなマキナさんからの情報はこれ以上期待できない、そして何より、味方であったはずのマキナさんを叩きのめした彼女の暴走はいよいよ差し迫ったところまで来ている。
 そう判断したハヤテ君と伊澄さんは、マキナさんのことを咲夜嬢と銀華さんに託して、天王州邸へと駆けていくのでした。
 伊澄さんに連絡用の携帯はなんとか渡したものの、任されたマキナさんをさてどうしようと一悩みの咲夜嬢。任されたもう一方であるところの銀華さんは、隙あらば本当にとどめを刺さんばかりに目を輝かせています。

「せやけど自分、ボロボロやけど大丈夫か?」

 とりあえず、咲夜嬢はマキナさんにどんな感じか聞いてみることにしました。
 問いかけられたマキナさんは満身創痍。ひっぱたかれた痛みやら、流した血やら、食い込む鎖やらで意識も朦朧です。そんな中で、マキナさんはなんとか答えました。
 ハンバーガーがあればなんとか。
 咲夜嬢の頬がゆるみました。

「なんやそんなもんでいいなら、ウチが作ったろか?」

 眼前で微笑む少女にマキナさんは目を見開きました。
 あの神の食べ物であるハンバーガーは目の前の少女が作るというのです。
 肉厚のパテにパンとパン、間にはケチャップと、隠し味としてなんとピクルス。それらをどう加工したのかマキナさんには検討もつかない、複雑怪奇で技術の粋を投入した魔法の料理ハンバーガーを作るというのです。
 本当か? マキナさんは疑いました。

「ちょうどナギたちがホテルでパーティしとるみたいやし、そこ行ってみようか。そこならぎょーさん材料もあるやろうから、いっぱいハンバーガー作れるでー?」

 マキナさんは信じました。
 いっぱい作れると来たのです。さらには笑顔には一点の曇りもありません。この自信なら本当に違いない。

「争うのはなんやし、それで仲直りっちゅーのは、どないや?」

 ウィンクした咲夜嬢のビックマック級の度量に、

「は……はい!」

 マキナさんはとても力強いいい返事を返すのでした。



 

「昨日はただならぬ気配を感じてここへ来て、門の所にどうも気になる紋章があって、少しカマをかけてみただけだったのですが……」

 広い場内に反響していく伊澄さんの声。
 それ以外の音は、二人の足音だけでしたが、幾多の修羅場を切り抜けてきた二人には、その静寂は心穏やかなものではありませんでした。

「もしかしたら思った以上に融合が早まっているのかも」

 伊澄さんの推察にハヤテ君の焦心は一層強くなりました。城内の空気はただならぬものでしたし、なにより伊澄さんは専門家。否定する材料はありません。
 となれば、とにかく急ぐだけ。
 ハヤテ君は伊澄さんに「急ぎましょう」と掛け声一つ掛け、そして注意を促すことも忘れませんでした。

「けどこの中は相当広いですから!! 迷子にならないように……」

 しかし、

「注意して」

 遅れました。スピードが足りませんでした。

「い、伊澄さん!? あの……ですから迷子にならないようにですね……!!?」

 相手を無くしたハヤテ君の声はむなしく響きわたるばかり。むなしさを感じつつも、伊澄さんの迷子スキルへの警戒が足りなかった自分の不甲斐なさに黙っていられません。
 ゴソ
 するとなんと物音がしました。そして近づいてきます。
 もしや迷子スキルが進化しすぎて、迷子になることに迷子になって戻ってきてくれたのか。
 期待するハヤテ君のほうに影が伸びてきました。
 頭に角みたいなのがあるけど、あれか、ウサミミを付けてるんだ。それで、戻ってこれたんだ。それに、こんなに短時間で戻ってこれたんだから、

「よかった伊澄さん!! まだ近くにいてくれて」

 返事は鼻息でした。ふしゅーふしゅー。
 見えたのは、ウサミミじゃなく角でした。あと、オプションで斧。
 着ていたのは、着物じゃなく肩から纏う布でした。あと、強いていえば毛皮。
 そして、顔は牛っぽく。
 神話の世界の住人。ミノタウロスがハヤテ君の目の前にいました。
 ハヤテ君は、マキナさんがボロボロになった理由を察しました。
 そして、ミノタウロスは、斧を振り上げ、




 

 ドカッ
 遠くから聞こえた物音に、伊澄さんは振り向きました。

「ハヤテさま!?」

 この城内でそんな大きな物音をたてる存在など、ハヤテ君以外に想像できません。

「そんな、まさかハヤテさまが迷子になるなんて……」

 自分は目的地に向かって最短距離を駆け抜けただけなのにと思う伊澄さんですが、時間のない今、ハヤテ君のところに引き返す時間もありませんし、引き返せるような気もしません。
 なので、前に進むことにしました。

「それにしても……」

 大きな扉を開くと、そこは広いホール。
 そして、宙に吊るされていたのは巨大な宝石。

「これは」

 似た形状。
 似た光。
 似た波動。
 しかし、似ているだけ。

「それは王玉のレプリカ。この神話の土地の龍脈を使えばオリジナルと同等の石が精製できると思ったのだけど……」

 それを肯定する声。近づいてくる足音。
 
「やはりダメね、まがいものは……」

 振り向くとそこにいたのは黒衣の少女でした。
 
「力を集めれば集めるほど……神話の化け物どもを実体化させてしまうだけ」

 そして、少女は伊澄さんに向かって微笑みました。

「やはり必要なのはオリジナルの石ね……」









 その重たそうな外見に反して斧は軽々と振り回されました。そして、頑丈であるはずの石柱を易々と破壊しました。
 牛の怪物、神話上の化け物ミノタウロス。
 自分が非現実的な状況に置かれていることにハヤテ君は舌打ちせざるをえませんでした。
 石柱の破片を割って襲ってくる攻撃を回避し、ハヤテ君は廊下の脇に立つ騎士の鎧から、剣を拝借しました。

「まったくどこのRPGだよホント。けどさ……」

 そう、今のハヤテ君には、

「お前なんかと……」

 一刻も早く彼女のところに駆けつけるという現実しか、受け入れることはできませんでした。

「ブモオオオ――」
「遊んでるヒマはないんだよー!!!」

 そう叫び、剣を一薙ぎすると事は全て片付きました。
 思わぬタイムロスを埋め合わせるように、ハヤテ君は一心に駆けました。
 慌しく正確に記憶するには及ばなかったものの、それでも前夜、彼女を捜し求め城内を走り回った記憶は、ハヤテ君の目的地への到達を早めてくれました。
 そして、扉は開かれました。

「ここは……」

 あの時の、あの場所とそっくりのホール。とてつもないサイズを除けば破壊された王玉によく似た巨大な石、剥き出しの歯車で動かされる巨大な時計、そして禍々しさを隠そうともしない英霊の腕。
 そこでハヤテ君を歓迎したのは手足が伸び、光り輝くような愛らしさの代わりに吸い込まれそうな漆黒の美しさを身にまとった、彼女によく似た、彼女そのものの別人でした。

「よく来たわね」

 ハヤテ君の到着を祝うように、呪うように鐘が鳴り響きました。
 
「わざわざ石を持ってきてくれてありがとう。ハヤテ……」

 冷たくお礼の言葉を口にする彼女の背後には腕に握られていたのは苦しげな表情の伊澄さん。
 
「伊澄さん!?」

 石を見せ、自分が隙を作って、伊澄さんに分離してもらう。
 事前に考えていたプランを破壊されたじろぐハヤテ君の顔に、少女は心地よさ気に微笑みかけながら指を鳴らしました。するとハヤテ君の傍らに一本の剣が落ちてきました。
 これもあの時とそっくりの意匠の剣でした。

「そういえば、まだついていなかったわね……」

 そして、彼女は右手に出現させた剣をかざし、微笑を深めました。
 二本の剣越しに向き合った、ハヤテ君と彼女。
 それも、あの時にそっくりでした。

「一〇年前の……決着が」

 傷つけあったあの時に。












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