しっぽきり

 待ち人である少年は予定時刻きっかりに来ました。
 待っていた一人が答えを尋ねると、少年は左手を差しだし、握っていた拳を開きました。
 そこにあったのは、バラバラになった石。
 待っていたもう一人が叫びました。それがどういう意味を持つのか知っていればそれは当然のことでした。その石が砕ければ、三人がよく知る少女の運命も砕けてしまうのです。
 けれど、少年はその石の欠片を再び握りしめ、諭しました。
 その人が自分の為にしてくれたんだと。
 だから、その人の気持ちに、優しさに応えるために、少年は宣言しました。

「お嬢さまの執事として、彼女を……救います」









 あなたは、だあれ?







 少女が夜空を指さすと、少年も釣られて空を見上げました。すると、そこには一際強く輝く星。

「あの星に……約束したではないか。
 過去でも未来でも、お前が私を守るって。
 だったらここから先の未来は、お前が私を守ってくれ」

 信じられない体験をしたのはつい先日のこと。
 その時、少年は過去で、そして未来で少女が言った通りのことを誓いました。 

「お前が守ってくれるなら、だったらお金はいらないよ」

 少女は手を下ろし、少年に向き直ります。

「お金にかわって、お前が私を守ってくれるなら」

 もう一回繰り返して、何も混じらない純粋な笑顔を浮かべると少年に言いました。

「守って……くれるんだろ?」

 その言葉は質問ではなく、確認。

「……お嬢さま」

 その言葉に、少年が思い出したのは、昨日尋ねられた質問でした。

 一番守りたいものはなんですか?
 一番大切な人は誰ですか?

 その問いに答えるのは、恐怖以外の何物でもありませんでした。
 けれど、今。すんなりと胸に落ちていきます。

 その人は、笑いかけてくれました。
 その人は、生きる場所をくれました。
 その少女は、ちょっとひねくれた、でもとても優しい少女でした。
 その少女は、誉めてくれました。
 その少女は、自分を救ってくれようとしました。
 その少女は、自分のために泣いてくれました。
 その少女は、自分を大切な人に胸を張って紹介してくれました。
 その少女は、自分と一緒にいると楽しそうでした。
 その少女は、自分に弱いところを見せてくれました。
 その少女は、自分を頼ってくれました。
 その少女は、一緒にいたいと願ってくれました。
 その少女は、かけがえのない思い出をくれました。
 
 ――僕が一番守りたい

 その少女は、目の前で微笑んでいました。

「お嬢さま」

 そして、少年は首を傾げる少女を抱き上げました。
 突然の少年の行動に驚く少女。
 少年は、少女を優しくしっかりと抱きしめて、言いました。

「お嬢さまに一つお願いがあります」
「は……はい!! なんでしょう!?」

 驚きのあまり、いつもとは違う丁寧な口調で答える少女。

「今夜一晩だけ……おヒマをください」
「……ヒマ?」
 
 問い返す声に、少年は真摯に説明しました。

「どうしても、助けなくてはならない人がいます。
 その人は僕にとって本当に大切な人で、僕の命の恩人です」

 その人がいなければ、少年は今、ここにはいなかったでしょう。

「その人が今……苦しんでいます。一人で消えようとしています」

 だから、

「その人を救わなくては、決着をつけなくは、僕は前に進めません」

 少年は、少女を下ろし、肩に手を置き、語りかけました。
 決着をつけてくると。

「そしてそれが全部終わったら、僕は必ず――お嬢さまの元に帰ってきます。
 だから……一晩だけ――」

 少年の瞳をじっと見て、少女は頷きました。

「ああ……では待っているぞ」

 








 あなたは、だあれ?
 







 部屋に戻ると着慣れた服に手を伸ばす。
 Yシャツを着て、ジャケットに袖を通し、蝶ネクタイを締める。
 一つ一つの動作を丁寧に、確認するようにこなしていく。
 自分の存在を確かめるように。
 作業は終わった。姿見に写した姿は、心の中で描いていた自分と完全に一致している。
 これで、いい。
 これが、僕だ。

 僕の名前は、綾崎ハヤテ。

 三千院ナギお嬢さまの、執事だ。












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2009.12.23 22:57 | 360度の方針転換