しっぽきり

「はー長かった旅行も今日で最後かー」

 洗面所、深いため息とともに呟く歩さん。嘆いていたのは言葉通り、旅行が終わってしまうこと。始まる前は、こんな長期間家を空けるの初めて、と思うぐらいの日程でしたが、始まってしまえばあっという間で、帰国は明日の朝。楽しいかっただけに、さみしさも増すというものです。
 ナギお嬢さまは、だがそれがいいなどと言いますが、こちとら庶民。海外旅行なんて、そうそう、ひょっとしたら二度と来れないのです。なので、テンションも落ちようというもの。

「だがしかし!!」

 乗り込んできた三人はテンション高めでした。

「心配するな皆の衆!!」

 朝が遅いのをがんばって、うぐぐと起き上がったところに、ハイテンションで飛び込んでこられたこともあって顔をしかめるナギお嬢さま。
 そんなお嬢さまの不機嫌さを吹き飛ばすように、美希さん・泉さん・理沙さんはまたテンションは更に加速しました。

「旅の最後は、派手にいくぜ!!」

 三人の勢いは止まることを知りませんでした。ヒナギクさんに、昨夜美希さんが通達済みでしたから、今度の標的はハヤテ君。ナギお嬢さまにハヤテ君の部屋を聞き出すと、三人は安パイと考えているナギお嬢さまは教えてくれました。三人はダッシュ。すると折りよく、ハヤテ君がのっそりと部屋から出てきました。

「おはよう!! ハヤ太君!!!」

 勢いそのままに、背中をドーン。すると意外や意外、ハヤテ君は倒れコロコロと転がって壁にドスン。弱々しさに呆れる理沙さん。

「まったくそんな弱々しさじゃ、今日が思いやられるぞハヤ太君」
 
 頭をさすりつつ問い返してくるハヤテ君に、三人は胸を張って答えました。
 
「ふっふーん!!」
「我々はお金持ちだぞハヤ太君!!」
「そして女の子だぞ!!」

 ハヤテ君のそんなこと知ってますが? 的なニュアンスを込めた「はぁ?」という呟きを三人はスルーしました、女の子なので。

「だから旅の最後には、お楽しみのお買い物タイムだ!!!」

 



 そんなわけで三人の勢いに押し切られるように街中に繰り出した一同。
 大げさな台詞の割には、単なる買い物じゃない。ヒナギクさんとしては肩すかしな気分ですが、美希さんの口振りからするに、何か後にある様子。なにがあるのと聞いたところで、当然答えてくれません。
 なので、質問を変えてみることにしました。

「ていうか海外で買い物って、そんなに楽しいの?」

 ヒナギクさんにしてみれば、あれな事情なので海外は初めて。当然、海外で買い物もしたことがありません。だというのに、今日の三人はもちろん、姉である雪路さんも海外での買い物に大層魅力を感じている様子。なので、質問してみたのですが、

「お子さまだなーヒナは……」
「まるでわかってないなー」

 返答は上から目線でした。

「なにせ日本にはないデザインがある色がある」
「おまけに日本よりも超安い!!」

 反論しかけたところで、具体的な意見。思わず、ヒナギクさんも納得しかけましたが、

「ていうかムダ遣いは……!!!」
「楽しいに決まっている!!!」

 二人がぶちこわしました。
 そんな見も蓋もないことをことを言い切られても困りもの。そそくさと入店していく三人にかける言葉もありませんでした。
 
「みなさん楽しそうですね~」
「そりゃ金を湯水のように使うのは楽しいさ」

 目を細めるマリアさんに、答えるのは湯水どころか呼吸をするようにお金を使うナギお嬢さま。
 そんなお嬢さまに、おずおずとハヤテ君が尋ねてきます。

「ていうか僕は私服でいいんですか?」

 どこか居心地が悪そうなハヤテ君。ですが、ナギお嬢さまはせっかくの旅でそれも最後の一日だから可、と鷹揚でした。というか、そもそも旅の最初に執事服じゃなくともおkと伝えていました。
 そんなやりとりを聞きつけたのは、いつの間にか戻ってきていた泉さんでした。

「よーしそんなハヤ太君のために私がお洋服を買ってあげるよ」

 私服に違和感を感じるのはおかしいし、そもそも街中歩く私服が寝間着と兼用って。そんな思いを元にした泉さんの親切心は止まりません。遠慮するハヤテ君を「つべこべ言わずに来るのだ」と連れ去ってしまいました。

「人気者ですねーハヤテ君」

 信頼する執事が周囲の人間にも気に入られていることに目を細めるマリアさん。ナギお嬢さまも、泉さんは顔に落書き的な意味合いで安パイ中の安パイと思っていますから、特に止めませんでした。

「最終的に荷物持ちになってる気がするけどな」

 そんな薄暗い近未来を予知しつつも、ナギお嬢さま、そしてマリアさんが気になったのはハヤテ君の表情でした。

「ただ……やはりちょっと元気がない感じがしますね~」

 マリアさんは一つ小首を傾げ、ヒナギクさんの方を向きました。

「昨日のディナーの時、何かありました?」
「へ?」

 一瞬、言い淀んでヒナギクさんは笑顔を作り否定しました。

「そうですか……ならどうして元気ないんですかね?」

 ハヤテ君の方に向き直るマリアさんをよそに、ヒナギクさんは昨夜のことを思い出していました。

 あの人は僕の……好きな人です。

 美希さんの言葉に、そして三人のはしゃぎぶりに、ヒナギクさんの気持ちは昨夜に比べれば幾分マシになっていました。しかし、忘れられるはずもなく、ふとした瞬間に思い出してしまうのです。
 思い出したばかりで直視してしまうのはいたたまれない。ヒナギクさんは、ハヤテ君から背を向けて、どこでもいいからと、一番近いお店に足を向けました。

 ダメだな私は……。

 思い出す度に沈む自分の心を、ヒナギクさんは自嘲しました。
 ハヤテ君は一六歳。好きな人なんていて当然なのです。

 当然だけど……当然だけど……

 自分の思いが、伝えられずに終わってしまうのは、たやすく受け入れることなどできません。
 あの三人みたいにテンションをあげることなんてできません。
 ところで、

「お買い物は……!! 超テンションが上がるんじゃないかな!?」

 ヒナギクさんが入ったお店の中では親友である歩さんがテンションMAXで辛抱たまらんとばかりに叫んでいました。顔を遙かに越える細長いサングラスをかけて。
 そのあまりの異様さにポカーンなヒナギクさん。なんとか「なにそのサングラス」と尋ねると、歩さんは自慢げにサングラスを指でクイっとあげました。

「いやー、さっきそこえ見つけてあまりのカッコ良さに思わず買ってしまったのです」

 新たに入店してきたナギお嬢さまとハヤテ君にも見せつけるように、あるいは即決購入した自分をほめるように胸を張りました。

「こんな派手なサングラス、日本になかなかないからね!! そもそも日本じゃ普通サングラスなんてかけないからね!!」

 カッコ良さの基準は人それぞれですし、日本になかなかないから買ったというのも理解はできます。ですが、どう考えてもかけないなら買う必要が感じられません。
 知り合いの、チャイナドレスフルオーダータンスの肥やし大後悔事件をあげて歩さんを説得するヒナギクさんですが、歩さんにそれを気にする様子はありません。「たしかに愚かな人ねその人は……」なんて、自信たっぷりに言い放つ始末。

「確かにテンションで買い物をすると失敗もするでしょう……。
 家に帰ってから後悔する事もあるでしょう……」

 その自信の根拠は、

「しかし後悔は……!! 決して前にはできないのです!!!」

 とても普通な言葉でした。
 皆が呆れる中、しかし歩さんの言葉に感銘を受けたチビっ子が一人。

「けどまぁそうかもしれないな」

 ナギお嬢さまでした。

「よし!! ハヤテ!!」

 そして、ハヤテ君に向けて、

「私たちもお買い物に行くのだ!!」

 向日葵のような笑顔で宣言するのでした。







 
 そうと決まれば、善は急げだ。
 このお店の商品は一通り見たし、別の店に移動しよう。
 お店の外に出て、走り出すと、ハヤテも突然走り出した私に驚きながらも、後をついてくる。
 どの店がいいだろう? ここかな? あそこかな?
 ここにしよう。
 足を止め、扉を開くと、私達に少し遅れて来たマリアが、どうしてこのお店を選んだのか聞いてくる。
 一言、インスピレーションと答える。そんな理由で、と呆れるマリア。ならピンと来ただ。でもそんな理由で十分だろ?
 あいつの言うとおり。後悔なんて後ですればいいのだ。ハムスターもたまには良いことを言うな。
 ま、そんなことより、まず洋服選び。
 何か買ってもらったのかは知らないが、クラスメイトが買って、主が買っちゃいけないなんて法律は日本にもギリシャにもないはずだ。
 それに、これからは夏だ。暑い執事服ばかりじゃ、ハヤテもかわいそうだ。
 夏、そうだ海でも着られるような服を選ぼう。今度は水着を買おうか? あー、でも、うん、そうだ、別に泳ぐだけが海の楽しみ方じゃない。泳ぐことを前提に海に行くことなんてないんだ。
 あ、これなんてどうだろう?
 半袖の黒いパーカーを一着手に取り、ハヤテに合わせてみる。
 うん、想像通り。似合う。よし決めた、これにしよう。
 せっかくの買い物なんだから一着だけ、一店だけなんて、当然なしだ。
 それから、いくつもの店を巡って、服を、シャツを、ズボンを何着も買った。私の分も少し。そして、目を盗んでマリアの分も。マリアもメイド服ばっかりじゃかわいそうだからな。
 結局、私がハヤテに荷物持ちをさせてしまったが、まあ大半はハヤテのものなのだ。勘弁してくれ。ゆっくり歩くからさ。
 靴も買ってやろう。見れば、ハヤテの足下は大分履き込んであるスニーカーだ。革靴ばかりだから気づかなかった。
 そもそもハヤテはストイックすぎるのだ。執事服もいいが、これからは私服を増やしてもいいかもしれない。
 そうだ、一度、私服のハヤテと街へ行こう。皆、ではなく、二人っきりで出かけよう。
 主従ではなく、そんなの関係ない二人っきりのデートをしたらどうだろう。そうすれば、ハヤテが抱えている憂鬱も吹っ飛ぶはずだ。
 なにせ、私はハヤテが大好きで。
 ハヤテも私のことを、大好きなのだから。
 



「楽しいですねハヤテ君」

 いつもの消極性はどこへやら。街をお店を縦横無尽に駆け回るナギお嬢さま。
 そうだ。

「お嬢さまとの日々は、本当に楽しいです」

 少しわがままだけど、お嬢さまは無邪気で、優しい。だから、お嬢さまといると嬉しくなってしまう。

 けれど――

 たとえば今の買い物でいくら使ったのだろう?
 考えた途端、引きずられているうちは、全然重くなかった荷物が鉄塊のように重くなる。
 お嬢さまは選ぶとき値札を見なかった。
 お嬢さまは支払うときカードを差し出しただけだった。
 この幸せな日常は、お金に守られている。
 お嬢さま自身には、守られているという感覚はないのかもしれない。人が、普段は酸素を生きるために必要不可欠なものだと感じず、呼吸をしているように、あって当然のものと感じているのだろう。
 そして、この石を壊してしまえば、渡してしまえば。
 この日常は壊れてしまう。

 けれど――

 石を渡さなければ、アーたんが壊れてしまうだろう。
 彼女はずっと一人で苦しんできた。一〇年も前から、苦しんできた。
 死ぬわけではない。伊澄さんはそう言った。アーたん自身が英霊との融合を望んでいる可能性もあると指摘した。そして、彼女は僕を遠ざけようとした。再会したときも、他人のフリをした。
 彼女を僕を遠ざけて、全然違う何者かになろうとしてる?

 違う。

 だけどあなたの心が、「助けて」って叫んでいるのだけは聞こえていますわ。

 初めて会ったあの時、僕は助けてなんて言わなかった。なのに彼女は、僕の心を聞こえてくれた。
 今、彼女が声にしなくても、心の中の叫びは僕に聞こえてくる。
 助けて、って。
 そして、この石を渡せば彼女は救える。

 ――けれど僕は、どちらかを選ばなければいけない。

 アーたんを救いたいなら、石を壊せばいい。
 お嬢さまを守りたいなら、石を守ればいい。
 なんて、選択なのだろう?
 僕が選べば、どちらかが破滅する。そんな選択を僕がしていいのか?
 石を壊さずにアーたんを救える方法が見つかれば、見つかれば。
 けれど、もし、いや、見つからない確率の方が高いのだろう。
 見つからなかったら。
 どちらかの世界を壊さなければならないのなら。

 僕は、いったいどうすればいいのだろう?

正直、重い話ですがなぜハヤテはこれで悩むかわからない話です
ぶっちゃければマンガだからですがいくらマンガでもこの話は強引すぎだろ
なにせすでに執事の関与する領分を太平洋越えして、頭のいかれた爺さんの孫に遺産を渡したくないとしか思えない条件、こんな話、世間が知れば三千院は潰れます。
普通なら主人に相談して後はナギといかれた爺さんの話でしょう
大丈夫、法律の相談所でなら勝てます
爺さんは刑務所でボクシングで習うことで済みます
まあ一人で背負いたがる馬鹿な執事は置いといて、ナギの父親ってハヤテの兄なんでしょうか?
あと作中でどうもハヤテの石にしか興味がないのはなぜ?
ナギの前の執事って一生守るっていう約束、絶対守ってる流れですね・・・
全ては頭の悪いいかれた爺さんを処理すれば済みそうな話
作者、もうちょっと深い話にしようよ、鋼の兄弟みたいなさ

2009.12.01 01:18 URL | バカはやて #- [ 編集 ]

>三千院の爺様

 孫に遺産を渡したくないのか、あるいは他に理由があるんでしょうかね。王玉の価値は帝も認識してるでしょうし。
 遺産に関わる法律には詳しくないのですが、「遺留分」というのがあって、仮に他人に財産を譲ると宣言してもある程度は相続できる、らしいのですが。ただ、これも相続人としての資格を排除(浪費癖やらも非行の一つに含まれるとかで)されることで失う可能性があるとかで。
 強いて言うなら、ハヤテが遺留分を知らない、もしくは裁判になったときに勝てる確証がない(帝も最高級の弁護士雇うでしょうし。金も、あと相応の権力も持ってるでしょうしね)とか、そこらへんでしょうか。

>ナギの父親

 過去編の時点で、ハヤテ兄は学生服を着ていることと、ナギが誕生済み(誕生時は十代前半~中盤)であることを考えると、ないとは言い切れないまでも、まずないかなあと思います。

>王玉

 ハヤテが持っている王玉がオリジナルの石なのかなあ、と今の段階では考えてます。あるいは、他の王玉の場所を把握していないのか。後は、ハヤテ自身を追い詰めることに何がしかの意味(特に何もなく生身でロイヤルガーデン入ってる人間ですし)があるのかとか。

>ナギの前の執事

 どの立場にいるのかいまいち分からない人間ですからねえ。王玉の力を欲しがってた、らしいですし。とりあえず現在に登場するまでなんとも言えないです。

2009.12.01 02:43 URL | 美尾 #- [ 編集 ]

コメントの返事ありがとうございます
書いてなんですが、文章足らなかったので少し補足、裁判のことですが石の取り合いで命をかけたバトルロワイヤルを演じれたとなれば、おそらく勝ち目はないんじゃないという意味です
あと読者全員が思ってることでしょうが、ナギとハヤテがくっつく可能性のなさ・・・横浜が来年優勝する可能性よりなさそうの法則により、ナギは多分、最後は前の執事とくっつくと思います
いかにもこのお嬢様は直球系の馬鹿そうな男、好きそうです^^
だから話の展開では帝に脅されてる(ナギ相続のことで)とかそういう事情で石をほしがってるのだと
まあそれは置いといてですが美尾さん、小説好きなんですね。
文章丁寧だし、ハヤテと椎名作品への愛情、深っ!
自分、絶対チルについては結局はエスパー対人間なんて争うのもへんだと思ってるほうなので・・・
なんせねえ。やった、やられたの話は人間だってエスパーに酷い目にあわされてるでしょうが・・兵部さんもいい大人がそのぐらいわからないのかね
この人の頭は昔の軍人時代で止まってるとしか思えん
エスパーだろうが人間と人間、虐殺しあいたいなんてアホの化身か?昔の教訓とか結局、憎しみはまた新しい憎しみしか作らんのもわからんかな
だから馬鹿な横島のほうがよかったな
三人組もそんなに悩まなくても人間は酷いことなどやりまくってますよ、エスパーに限らず
横島なら迷わないでしょうね。馬鹿だから

2009.12.01 19:30 URL | バカはやて #- [ 編集 ]

>遺産相続のバトルロイヤル

 ハヤテも執事としてはまだ駆け出し(一応必殺技は覚えましたが)のレベルですからねえ。

> ナギとハヤテがくっつく可能性のなさ

 僕も薄いだろうなあと思ってます。ナギとは何か別の形の関係での絆の深さを見せていくのかなあと。今回はハヤテ側からの選択だとしたら、姫神が出てきたときはナギ側の選択になるのかもしれませんね。

>小説

 いえいえ((((( ;゚Д゚)))
 まだまだ未熟ですが、お褒めの言葉ありがとうございます。

>絶チル

 恨みが深すぎたんでしょうねえ……。今回のエピソードで変化の兆しみたいなものが見えますが、どうなるやら。

>横島

 馬鹿なのが彼の最大の魅力ですねw

2009.12.01 21:42 URL | 美尾 #- [ 編集 ]













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