しっぽきり

「きっとあなたは今まで、その生まれ持った圧倒的な力で、敵をねじ伏せてきたのでしょうけど……」

 伊澄さんが呆然と見上げるその先で、艶やかに微笑みを浮かべる少女が一人。
 信じることができませんでした。信じたくありませんでした。
 ずっとずっと修行してきました。過去には絶対的に十分にはなりませんでしたが、目前の事態について相対的に不足していると思ったことは一度としてありません。
 それだというのに、今夜は。

「それが通用しない敵もいるという事を、教えてあげる。
 来なさい。相手になってあげる」

 こんな事があるわけがない!!!
 傲然と言い放たれた言葉に、伊澄さんの心と体が弾かれたように動き出しました。
 先ほどと同じ動き、同じ光。
 ただし、

「おおお!! さっきのが四体!?」

 親友の言葉通り、天に上った光は四つ。
 
「術式八葉建御雷神、四面!!!」

 四方に散ったそれは、一点に集約し英霊へと降り注ぎました。

「ワンパターン……頑固者なのね」

 しかし、見透かしたような言葉とともに、雷はかき消えました。英霊は動きだし、大地を抉り、そして伊澄さんを弾き飛ばしました。
 散らばった黒い髪が弧を描き、力なく宙を舞う少女。その姿に、ハヤテ君は踏み出しました。
 
「伊澄さん!!」

 そして、伊澄さんを受け止めると、彼女に無事を確認しました。

「大丈夫ですか!? 伊澄さん!?」
「……ハヤテさま」

 返事を聞き、無事なことを確認すると、ハヤテ君の心は伊澄さんから、少女が暴力を振るっていることに移っていきました。だから、気づきませんでした。自分の腕の中に抱き抱えた伊澄さんが頬を赤らめていたことには。

「もうやめてよアーたん!! なんで……こんな事を!?」

 叫ぶハヤテ君に嘲笑を浮かべる少女。

「……なんで?」

 しかし、容易に答えることはできませんでした。
 返事を遮ったのは、脈打つ痛み。そして、自問自答。

「なんで?」

 わかりきったことだ。
 石だ。石がいるのだ。
 
 確かめなくてはいけない、探しても見つからなかった、万が一という事もある。
 何を?
 王族の力。
 いらない。あんなものは、いらない。
 いや必要だ。
 あんな城には帰りたくない。あんな広い、孤独を飾りたてる城なんて。
 帰らなくては力を取り戻せない。
 力はもういらない。あんなものがあったとしても、いやいるんだ!! あれは私のものだ!!
 だから、

「とにかく石だ! 石がいるんだ……」

 自らの城を、自らの力を、全てを取り戻すために。刻み込むように、痛みを生むものをを底へと縫いつけるように、少女は繰り返しました。

「石がなくては、話にならない……!!」

 ゆっくりと、少女が身を起こしました。
 少女の苦しがる時間が、伊澄さんの混乱をとりあえず沈めてくれました。
 崩れ落ち、うずくまる。時に、強く、時に、弱くなる声。縦に、横に頭を振る仕草。苦悶の表情と、それが収まる一部始終。
 そんな彼女の様子をジッと観察していた伊澄さんが得心したようにうなずきました。

「なるほど、だいたい状況がわかってきました……」
「え?」
「なのでいったん退くので……ハヤテさまは咲夜をお願いします」
「で……でも……」

 そして、どうやら冷静になったようで、指示を始めました。
 ですが、自分を取り戻したのは伊澄さんだけではありませんでした。そんなやり取りを、少女はすっかり聞いてしまっていたのです。

「あらあら? 逃げられると思っているの?
 あなた程度の実力で……」

 そして、相手のことをだいだいわかったのは、少女も同様でした。
 カチン
 伊澄さんの頑固者の、ナギお嬢さまが評するところの変なスイッチが入りました。
 そして、そこまで言われて引くことを、自分に許すことができませんでした。

「だったらその身で、確かめてみますか」

 一枚のお札を取り出し、かざし、

「えっとその……もしもし伊澄さん?」

 地面に叩きつけるとお札は光の円へと変わりました。光が走り、風が走り、伊澄さんの長く黒い髪が天に向かって逆立ちました。
 両の腕を振り上げれば、幾本もの柱がそそりたち、空気をふるえさせました。

「術式・八葉、上巻!!!!」

 轟音が親友の制止の叫びをかき消し、閃光が巨大な牙を、顎を、鱗を、

「神世七代!!!!」

 竜を呼び出しました。
 鋭い牙が、剛力を誇る顎が、英霊を捕らえ、その腕に食い込んでいきます。

「のおおおー!! 伊澄さんのアホー!!!」

 竜の巨大さと、その竜が英霊と格闘するという現実離れした状況と、その余波に、叫び出したい気分はハヤテ君も同じでしたが、伊澄さんに言い含められていたように、咲夜嬢の許へと駆け寄り、彼女へと迫る石片を弾きました。
 しかし、そんな力にも少女の微笑みは消えませんでした。

「マキナ。食べるのは後にしなさい」

 呼び出した自らの執事へと、今すべきことを想起させました。
 戸惑ったものの、手にしていた大量のハンバーガーを置くと、執事は表情を変えました。

「じゃ、奥の手を使っていいんだな!!」

 言葉とともに、表情を変えました。
 いける。
 激しく動き回る英霊を掴んで離さない、自ら呼び出した竜の勢いに、伊澄さんは確かな手応えを感じ、自信を取り戻そうとしていました。
 しかし、それは、
 !? あれは!?
 一筋の太く、長い影によって引き剥がされてしまいました。
 そして、黒い影は、竜に絡みつき、巻き付くと、その力を強め、
 ――神世七代が、
 竜を、
 ――防がれた!!?
 引き裂きました。
 唖然と開いていた口を、大きく見開いていた目を、襲った粉塵にせき込み、涙しながら、伊澄さんは自分に絶望しました。
 竜が引き裂かれ音、光が爆ぜる音、崩落していく音。
 不協和音の中、いままで培ってきた力が、費やしてきた時間が、思いが、プツリプツリと音を立てて断たれていきました。
 ヒーローは、負けてはいけないのに。


 

 衝突していた物体の巨大さに比例するかのように長い煙が静まっていくと、そこには誰もいませんでした。

「逃げられちゃったかな?」

 ホール中を這い回り、自らの主に害なす存在を探っていた執事が、少女の元へと帰ってきました。

「そうですわね」

 動いていた力の大きさを考えても、あの巫女が、そして王玉を持つ少年が跡形もなく消え去ってしまうとは少女には思えませんでした。

「けど……まぁいいですわ」

 少女は、しとめ損ねたことをさして惜しいとは思いませんでした。
 今回は前回と違うのです。前みたいに長く長く待つ必要はないのです。
 彼に少女が忘れられるわけはないのですから。彼女に少女が忘れられるわけはないのですから。

「すぐにまた会えますから」

 そうつぶやくと少女は巨大な蛇の頭を、自分の執事の頭を、優しく撫でるのでした。












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