しっぽきり

「たしかにこれはレアメタルです。しかし、それ以外に変わった点は認められませんね」

 三人の魔女裁判から生還した皆本さんは、フェザーさんから頼まれたとおり、受け取ったレアメタルのイヤリングの調査を開始していました。
 加圧したり、冷却したり、火であぶったりしてみても、文字どころか、何も変化はなし。

「透視の結果は?」
「そっちも収穫なしよ」

 頼みの綱のサイコメトリーを使っても、やっぱり何も出てきません。そして不二子さん曰く、そこがおかしいとのこと。
 レアメタルにはESP念波を記録・増幅するという性質があるというのに、何も出てこない。つまりは、今掘り出したばかりの新品、もしくは、

「中身が全部なくなったヌケガラみたい」

 紫穂さんも同意見。
 とはいえ、貰ってからたかだか数時間。結論を出すのは性急ということで、今後もじっくり調査を続けるということで意見の一致を見ました。
 そうと決まれば不二子さん的に気になるのが、イヤリングと、キスをくれたフェザーさんのこと。

「あんた、そのコに気に入られてんなら、色仕掛けでなんとかしたらどう?」

 と、籠絡するようにけしかけ、皆本さんにしてみれば、これ以上のハーレム拡張は維持に問題ありだしノーサンキュー。仮面萌えの気質もありませんので、「な、何バカなことをー!!」と断ります。不二子さんの答えは「チルドレンがこわいから?」と、だいたい合っているのでした。






 一方、チルドレン。検査が終わったとたん、薫さんは何か用があると言い出し単独行動。それを不思議に思いながらも、好都合と葵さん、紫穂さんはお見送りし、速攻で帰宅。ちさとさんにも招集をかけてパーティーの仕上げを始めていました。
 飾り付けをする二人に、いまだに演奏に自信がなくベースにくびったけの葵さん。

「だいたい終わったけど……悠理ちゃんどうしたのかしら?」

 飾り付けを終えたちさとさんが梯子をしまいながら言いました。
 そう、悠理さんがいまだに来ていないのです。携帯にかけても出ません。

「こっちに向かってると思うけど……」

 ただ、悠理さんは希代のドジっ子。携帯を忘れている可能性を考えれば、連絡がとれないことは大した問題には思えません。それよりも問題なのは、

「薫ちゃんはそろそろ帰ってくるんでしょ?」

 薫さんが先に帰ってきてしまうこと。四人揃う前に楽器を目撃されてしまえば、サプライズはサプライズですが、驚いてから演奏するまで、悠理さんの待ち時間分、間抜けな時間を過ごすことになってしまいます。

「そうね。三時には帰るように念を押しといたから」

 とりあえず祈るしかない四人は、悠理さんの到着を願うのでした。
 その悠理さんは、まだ自宅にいました。服装も寝間着のまんま。

「ない……!! ないわ……!! どこにもない……!!」

 そして、涙声を出しながら、必死に部屋中の物という物をひっくり返していました。
 ニャー、とナイが心配そうに鳴くと、こちらは泣きそうな声でそれに答えました。

「ナイのことじゃないのよ……! イヤリングが」

 悠理さんが探していたのは、薫さんに渡すはずだったイヤリング。本棚にも、服と服の間にも、引き出しの中にも、バッタモンポーチの中にも、ないのです。昨日まではちゃんとあったはずなのに。更に、パーティの開始時間は刻々と迫ってきています。焦らずにはいられません。

「どうしよう……ナイはどこかで見なかった!?」

 ニャーと答え、ナイは目をそらしました。もちろん、答えを期待していたわけではない悠理さんは、再びイヤリングを探そうと、手を動かし、そして止めました。
 代わりに動いたのは、瞳の中に溜まっていた涙。

「うわあああーん!!」

 友達の誕生日プレゼントに渡そうと思っていたプレゼントをその当日になくす。
 悠理さんは自分のバカさ加減に泣き叫ぶしかありませんでした。
 何もかもわかりません。そもそも本当なら、もうとっくにパーティの準備をしている時間なのに自宅にいることも、そもそもあんな遅くまで寝ていた理由も。

『……ファントム!? あなたのしわざ!?』
『ちがうって! ホント!』
『じゃあどうして !!』
「にゃ!?」
「悠理ちゃん……? どうしたの? 何かあったの?」

 そして、何もかもわからない悠理さん達の前に、

「か……薫ちゃん!? どうして」

 薫さんが現れました。
 予期しない訪問者の登場に、更に混乱する悠理さん。そんな彼女に、薫さんは赤ん坊に言い聞かせるように優しく説明してくれました。
 チャイム鳴らしても返事がないから、勝手に入った。ドアの前まで来たら泣き声が聞こえた。鍵? あたしはオートロックでもかまわず開けちまうサイコキノなんだぜ? というお話でした。
 そして、携帯電話を取り出しました。
 
「こんなメールくれたから、なにかあったかと心配だったの」

 そして、そのメールを見せてくれました。
 その内容は、

 出会いが満載☆
 入会無料☆
 
 どこかから来た、迷惑メールでした。キョトンとする悠理さん。焦る薫さんは、必死にそのメールを探そうと再び操作し始めました。

「こっちか!? あれ!? これも迷惑メール!? 架空請求? そんなエロサイト見てねえーっつーの!!」

 ですが、メールは見つからず、出てくるのは、「人気声優のおっぱい見放題」とかそんな感じの怪しいメールばっかり。恋する乙女である薫さんにしてみれば、そんなもの、

「いや……アレのことかな?」

 満更無関係なものでもありませんでした。乙女心とともにオヤジ心の持ち主でもあったので。
 それはそれとして、悠理さんにはメールを送った記憶なんてありません。そもそも、ついさっきまでずっと寝ていたはずなのですから。そう伝えようとして、悠理さんは自分が焦っていた理由の一つを思い出しました。

「薫ちゃん、そろそろ帰ったほうが。みんなにそう言われてない?」

 薫さんのお誕生日会開始の時間が迫っていたのです。

「うん、言われてるよ」

 頷く薫さん。
 それなら早く、と悠理さんが口にしかけたのを遮って、薫さんが続けます。

「でもさ、悠理ちゃんは来てくれないの? あたしのお誕生会」
「え」
「こっそり、話してたのそのことだったんでしょ?」
「知ってたの?」

 あっさりと秘密を当てて見せた薫さんに驚く悠理さん。質問に薫さんは微笑み言いました。

「そりゃ……だってさあ、あたしは紫穂や葵の誕生日、忘れたことないもん!」

 自分がそうだから、他の二人もそう。
 過信でもなく自信たっぷりにそう言う薫さん。言い切る薫さんが、言い切られる二人が、悠理さんは羨ましくて溜まりませんでした。

「私も、薫ちゃんのお誕生日……ずっと楽しみにしてたの。
 それで……プレゼント渡したくて、絶対渡そうと思ってて……それがなくなっちゃって……うぐ……うわあーん!」

 そんな薫さんの誕生日だからこそ、プレゼントを渡したかった。それなのになくしてしまった自分が改めて情けなくなり再び泣き出す悠理さん。
 そんな悠理さんを薫さんは抱きしめました。

「そんなの気にしなくていーのに!!」

 よしよしと彼女をあやしながら、薫さんはあることに気づきました。
 部屋に生活感がないのです。いえ、多少はあるのですが、どうにも物が少なくガランとした印象なのです。

「あのさ、悠理ちゃんのおうちの人は?」
「あ……あの……事情があって今は離れて暮らしてて――あれ?」

 薫さんに説明しようとすると、悠理さんの中に疑問が生まれました。
 どうしたんだろ……? 家族の顔が、浮かばない……!?
 どうしようもない居心地の悪さに必死に家族のことを思いだそうとしてする悠理さん。そんな様子を、複雑な事情をどう説明していいのか悩んでいるだろうと、勘違いした薫さんが、手をあげて止めました。

「いや……別にせんさくする気はないんだけど……。あたしも家族とはちょっと離れて暮らしてんだよね。仲はいいんだけど、お互い忙しくてさ。
 そんでお誕生日っていっつも二、三日ズレるんだよ。
 でもさ、紫穂や葵は意地でも当日にお祝いしてくれようとしてくれんの」

 悠理さんの手を握りました。

「友達がいてくれるのって、それだけで、うれしいよ」

 繋いだ手を持ち上げて、

「悠理ちゃん……何もなくたっていーから、来て?
 今日はあたしの誕生日だけど、それってみんなの誕生日ってことだよ。
 ほら、行こう!!」

 悠理さんを笑顔で促しました。
 だから、悠理さんは、

『イヤリングがなければ意味がないわ。少し遅れてあとから行くって言いなさい』
「……わかったわ、少し遅れて――」

 その笑顔に付いていくことにしました。

「行くよ、一緒に私!! 私は、遅れてなんか行かない」

 そして何に縛られることもなく、思いの全てを薫さんにぶつけました。

「私は、薫ちゃんが好き!! 大好き!!」
「ちょ、悠理ちゃん!?」

 戸惑いながらも、一三歳になったばかりの薫さんはうれしそうでした。






 ピンポーン。
 運命のベルが鳴りました。
 悠理さんならサプライズは成功。薫さんならサプライズは失敗。
 天国か地獄か。
 扉を開けるとそこに立っていたのは、

「ライブをやるなら、あたしも混ぜてもらおうか!!」

 地獄の帝王でした。
 そして、なんだかんだあって鮮血のような頭髪をした少女のENSOUせよ! という命令に、四人は逆らうことができませんでした。





 カツカツと紫穂さんのスティックが打ち鳴らされると、悠理さんのギターが掻き鳴らされ、ちさとさんのキーボードがメロディーを奏で、そして葵さんのベースもしっかりとリズムに乗り、薫さんのボーカルが響き始めました。

「結局、薫ちゃんがメインボーカル?」
「趣旨は変わったけど、楽しければいいって」

 少しぎこちないところもあったり、急ごしらえの薫さんのボーカルが少し音程を外れたりする場面もありましたが、演奏する五人も、遅れてきた皆本さん達も、誰もそれを気にする人はいませんでした。薫さん達が楽しそうだったので。

「よかったんじゃないですか。
 あの子たちの間で、隠し事が続くわけないですからね。大きな秘密も小さな秘密も……ね」

 そして、そんな子供達だからこそ、自分達の予想なんて遙かに越える未来を手に入れてくれるに違いない。
 皆本さんはそう思うのでした。












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