しっぽきり

サプリ ナオミさんだけスク水なのは、マエストロTANIZAKIのコーディネート。
扉絵 「二〇年人気街道大爆走中」 二〇年でいいのカナ? カナ?

 
 水中三〇メートル。空気の泡を放っているのは、これまた空気の泡。とはいえ、その泡は半径数メートルの巨大なもの、そしてその中心には三人の人影。

「……よし、着底した」

 そんなわけで、普段はありえない海の底に地に足をつけた賢木先生。彼の言うところでは、水深は三六メートル、滞在許可時間は一五分でした。
 その短さに驚く薫さんでしたは、紫穂さんは淡々としたもの。

「まーでもや奴と同じ空気を吸うのは、その辺が限界ね。急ぎましょ薫さん」

 その言葉に怒る賢木先生をよそに、破片を探し始めました。「なんかクサーイ」という捨てぜりふ付きで。
 そんな紫穂さんを、ツンデレ枠で処理するか、自分との百合枠に置くべきか悩みどころの薫さんでした。





「……了解です」

 海底からの報告を受けた朧さんは、また本部からの報告も受けていました。
 事故発生率は三五%。チルドレン達の行動にも関わらず、発生率は五%の微増、現時点では成果はあがっていませんでした。
 
「……海底を気にして事故の監視が甘くなってます。そっちは賢木先生に任せましょう」

 朧さんの提案に、皆本さんは「ですね」と
同意し、葵さんに注意を促しました。葵さんも心得たもの、自信たっぷり。ここからなら、海岸全域をカバーできるとのことでした。

「そし、それじゃ全力で警戒続行!!」

 局長の言葉に、一斉に双眼鏡で周囲を警戒しはじめる一同。
 すると、灯台を見ていた局長が灯台についてこんなことを言い始めました。

「そーいやことわざがあるよネ」
「あ、ウチ知ってる。灯台もと暗し!!」

 そう答えるのは、中間テスト平均九六.二点の葵さん。皆本さんももちろん知ってはいたのですが、そこはそれ、答えられそうだった葵さんを見て、試験後のデートでは読めなかった空気を読んだのです。
 それはそれとして、葵さんの答えは正解。出題者は葵さんをほめ、冗談を口にしました。

「今の状況そんなカンジだったりしてネ!」

 そんな局長に、朧さんが乗っかり、

「犯人がまた現場に戻って私たちを襲うとか?」

 皆本さんも乗っかりました。

「そこまで大胆じゃないと思うのが盲点?」

 葵さんも笑いだして、一同一笑い。
 そして思いました。
 あれ? ヤバくね?

「葵っ!! 全員を上空に緊急テレポート!!」

 思い至れば、念のために可能性は潰しておくもの、皆本さんは、振動テレポートで上空に移動させることを指示。葵さんもそれに応えました。
 そして、皆本さんの慎重さは報われました。
 四人がワープした直後、そこに突き刺さったのは銛。

「くそっ!! 化け物め……!!」
「やはりあいつらフツーじゃねえっ!!」

 そして、水面の一部が割れて、顔を出したのは潜水のための重装備を整えた見覚えのある二つの顔。

「反エスパー団体「普通の人々」かっ!!」

 皆本さんが叫べば、朧さんも、局長も拳銃を取り出し、応戦しようとしました。
 が、次の瞬間、葵さんのテレポートが乱れ、四人は悲鳴とともに船上に落下。
 異変をもたらしたのは、普通の人々のECM。それならばと、皆本さんはこちらもECCMを起動させようとしましたが、それは叶いませんでした。取り出した特製携帯電話を、足ヒレで一蹴りされ、海にポチャン。

「動くなっ!! 怪物とその支援者ども!!」

 突きつけられた拳銃に、皆本さんも、葵さんも手の打ちようがありませんでした。




「あいつらだわ……!」

 海底でも、紫穂さんのサイコメトリーによって、普通の人々がさっき声をかけてきたチャラ男達であることが判明していました。そして、その目論見も彼女は読みとっていました。爆弾はあくまでも陽動。本命は、戦力の分断。動揺が走る海底。そこに、皆本さんの携帯電話が落ちてきました。賢木先生は落ちてきたそれをキャッチすると、サイコメトリー。

「ヤベ……! 全員捕まった!」

 それが伝えたのは、普通の人々の作戦が最悪の形で成功した事実でした。

「薫ちゃん!! 今すぐ全速力で浮上して!!」

 いつもの冷静さをかなぐり捨てて「早くっ!!」と促す紫穂さん。ですが、現在位置は水底。

「落ち着け紫穂ちゃん!! それをやれば減圧症になるって言ったろう!!」

 賢木先生はそれを制止しました。頭では紫穂さんも理解していますが、心は従ってくれません。反論を叫ぼうとする紫穂さん。ですが、彼女の肩を薫さんが掴み、止めました。

「とにかく、できるだけ急ごう。どうすればいいの、センセイ?」
「薫ちゃん……!?」

 訴えても薫さんは答えてくれませんでした。そのことにまた抗議しようとした紫穂さんでしたが、それを止めたのはまたしても薫さん。掴んだままの両手が、いつもからは考えられないぐらいに強かったのです。
 薫ちゃん……?
 改めて見直す親友の顔は、何かに耐えているようで、心も言葉も見つかりませんでした。

「浮上は空気の泡が上がっていくよりゆっくりのペースで! 海底から三mで一度数分停止する」

 薫さんに疑問を残しつつも、ひとまず冷静さを取り戻した紫穂さん。賢木先生が、苦々しく思いながらも、ベターな選択肢を選ぼうとしていることが、絞り出した言葉からわかりました。

「了解……!」

 そして三人は、ゆっくりと、しかしなるべく急ぎくという矛盾した浮上を開始しました。




 一方、海場。
 皆本さんは、自分達の置かれている現状が思わしくないことを認めざるをえませんでした。切り札である葵さんの手首にはESP錠前。ECMと二重に抑えつけられては、さすがの葵さんもテレポートできません。もちろん、拘束されているのは彼女だけではなく、ほかの三人も拘束中。そして、突きつけられた拳銃。

「え~拘束したっす~。殺んのラクショーっすよ~」

 茶髪のテロリストは更に、海中にはエスパーが三人、薫さんと紫穂さん、賢木先生がいることを報告していました。ナイフを突きつけられたからには仕方のないことでしたが、戦力もすでに把握されていました。唯一の希望は不二子さんでしたが、こんなところで起きた騒ぎで、熟睡中の彼女が起きるとは思えず、やはり手の打ちようはありませんでした。

「指示は?」
「残りが待ってくんの待てってさ。トーゼンまとめて殺りてえっしょー」

 いつの間にか報告は終わっていました。そして、茶髪のテロリストは下品な笑いで、葵さん達を煽ってきます。しかし、皆本さんは、そして朧さんもその挑発には乗りませんでした。代わりに、彼らの上司の指示について違和感を抱いていました。
 いかに能力を封じているとはいえ、いざ捨て身の覚悟を決めれば、場所は海の上。突き落とせば、どうなるかわかりません。なのに、薫さん達の浮上を待つというのです。情を捨てれば、皆本さん達には駒が増えるというのに。皆本さんは、彼らの考えを読めませんでした。

「お、来た来た!」

 言葉に視線だけ向けると、青い海の一部が、薫さんの力で作った空気の球で白みがかっています。
 
「上がってきましたー。チョー思ったとーり減圧のために動けねえみたいっすね~」

 そう暢気に報告する茶髪の男に、皆本さんはようやく彼らの考えを理解しました。
 万が一自分達を殺した時に、海に何か落ちれば、海上の異変に気づいて、薫さん達は浮上するポイントをズラすでしょう。
 しかし、何らかの方法でまとめて、自分達を攻撃できるとしたら?
 薫さんの作る空気のバリアーは、空気を逃がさないために、内向きに力を向けています。そこに外からの攻撃がくればひとたまりはなく、状況を読み切れない水中では、瞬時に力を外向きにするなんて器用な真似は不可能。
 吹き飛ばすほどの火力で攻撃されたら。
 皆本さんの悪い予感は、またしても正解でした。
 ポムッ、という若干情けない音とは裏腹に青い空を走る、一本の筒。

「あれ~? 今の仲間のいるあたりじゃね?」
「なんかミサイルっぽい……?」

 皆本さんは思わず悪態をつきたくなりました。

「ぽいじゃなくミサイルだ!! スティンガーミサイル!!」

 迫る毒針に焦りながらも、皆本さんは二人のテロリストに怒鳴りました。

「あれでここにいる全員を殺す気なんだよ!!
 君たちも一緒に!!」

 慌てる二人は、まだ現実を信じたくないようでした。
 再び、皆本さんは悪態をつきたくなりました。
 危機意識がなさすぎる!





「体組織の空気が入れ替わるまでもう少しだ」
「あーもうじれったいわね」

 二人の状態を察知するために、そして落ち着けるために、頭に手を置いていたから、賢木先生は紫穂さんよりも気づいていました。
 薫さんの心拍数とエネルギーが急上昇していることを。
 薫さんの心中が奇妙に静か、というよりは透視ができないぐらいに心を閉ざしていることを。
 そして、薫さんが蠢く力を今はなんとか抑えているだけの暴走寸前状態であることを。












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