しっぽきり

一本目 黒歴史
二本目 著作権を主張して取り分を受け取れないことも怒る女帝というお話。




 キーンコーンカーンコーン。
 予鈴が響く中、薫さん・葵さん・紫穂さんは必死に走っていました。走っても走っても遅刻しないで済むかどうか。普段なら、バス通学で、学校の前まではのんびりお喋りしながらの登校なのですが、今日に限っては家を出るのが遅れたこともあって、時間に合うバスがなく、走るしかないのです。
 体力バカな気がある薫さんや、テレポーターであることを意識して逆に運動不足に陥ることを防ごうとマメに動く葵さんと違って、持久力にはやや欠ける紫穂さんは息も上がって苦しそうな様子。なので、葵さんにテレポートをせがみますが、葵さんは皆本さんの言いつけがあるからとスルー。皆本さんが死ねと言ったら、あなたは死ぬの? と若干頭の悪い反論を胸にしまい、その分も込めて、今度はそもそも走らなければなららない原因を作った、薫さんに矛先を向けます。

「薫ちゃんが悪いのよ!! 出がけに衣替えのこと忘れて冬服でー」

 が、悪びれずに薫さんはこれを「よくあることじゃん」とバッサリ。
 制服は中学に入ってからなんだから、衣替えも初めてなのによくあることもないもんだと、反撃をしようとしますが、葵さんの制止と、そして自分たちの仲間の出現に止めざるを得ませんでした。

「!!」
「みんな……!!」

 ちさとさんと悠理さんも必死にダッシュ中。校門をくぐり、ジャージな女教師さんに励まされながら、事情を聞けば、奇遇なことに冬服のまま来そうになったとのこと。
 そんな二人にシンパシーやら萌えやらを感じつつ、頭をテヘっと小突きながら、「ドジッ娘萌え要素だけど、本人は大変なんだよネ!!」とコナタる薫さんに、そのドジの被害者紫穂さんは怒鳴らざるを得ませんでした。
 そんなこんなをしながらも、予断を許さない緊迫した状況で、この朝最大のドジが怒りました。

「あっ。きゃ……あんっ!?」

 悠理さんがこけたのです。転倒。平坦で何もない校庭で。
 遅刻ギリギリの状態での転倒。あまりのシチュエーションに一同は呆然とするしかありませんでした。そして、
 キーンコーンカーンコーン
 ベルがなりました。遅刻確定。
 
「私のことはいいから先に行ってー」

 萌え要素の粋を極めた悠理さんに、しかし萌えは感じられませんでした。
 そんなわけで、お小言をいただいたり、冬服のまま来そうだったことをクラスメイトに軽く呆れられたりした薫さん達は、呆れていました。

「別に一日くらい制服まちがってもいーじゃねーか。そんなに気にすることか?」

 そう言い張る、長袖ブレーザーの東野君に。
 「あ、一杯入ってるわ、バイ菌。ううん、別に化膿するってわけじゃないし、絆創膏貼ってればすぐ治ると思うけど。それにしても、一杯入ってるわあ」と紫穂さんが悠理さんの治療しているのを横目に、乙女だからそんながさつな真似は無理と語る薫さん。
 その時、思い出したように、ちさとさんが水着のことを話題にしました。
 昼休みに購買部に水着が届く。夏がすぐそこまで近づいていることを感じさせるイベントに目を細めつつ、薫さんは窓際に。
 流れ込んでくる風は梅雨を前にやや湿気を帯びていますが、それも夏の前触れだと思えば爽やかなもの。その風に頬をゆるませて、薫さんが妄想するのは、透けたブラやら体のラインをはっきりと主張するスクール水着やら。同意するのは、男子ばかり。
 さらには、関東はまだだけど沖縄は四月ごろに海開きと、トリビアを披露しつつ、南国のビーチに思いを馳せる薫さんに、葵さん達は乙女認定を下すことはできませんでした。



 潜水艦が浮上したのは、沖縄とはいかずともそれなりに南の海でした。
 今日から海開きの日曜日。それに天気がいいとあっては、海水浴客も多いことは想像に難くありません。

「が、本部予知課はこの付近で今日、三〇%の確率で死者が一名出ると予知した」

 それ以上の、時間・場所の情報は不明だが、それを変えるの自分達の任務。そう皆本さんは、今回の任務を説明しましたが、肝心のチルドレンは聞いていませんでした。というよりは、薫さんは葵さんの胸に夢中で、葵さんは脱がそうとする薫さんに抵抗するのに必死、紫穂さんは精々がやる気なくそれを制止するぐらいに無気力。
 そんな中、葵さんがテレポートをして薫さんの背後を突くと、逆に揉みだしました。
 
「あんっ……!?」

 そう漏らしたあと、薫さんが感じるのは別の刺激に取って代わりました。
 ぶたれました。

「人命がかかった任務だよ!? 遊びに来たんじゃないのっ!!」

 たるみすぎだと叱る皆本さんですが、薫さんはすんなりと納得はできないようでした。

「つーても発生確率三〇%だろ? 海の事故は毎年あるし、そんなムキになんなくても……」

 皆本さんは薫さんの言葉に「そうだ」と頷きました。事実として、放送等で注意喚起はすれども、海岸は閉鎖されたわけでもなければ、チルドレン達の出動も強制されたわけではありません。
 それでも、皆本さんはこの任務に志願しました。

「君たちにだって大事な人はいるだろう?
 もし、家族や友達の誰かが三分の一で死ぬかもしれないとしたら、放っておくかい」

 チルドレン達が目を見開き、お互いの顔を見回し、そして再び皆本さんを見直しました。

「どの人にも家族や人生、未来がある。
知ってしまった以上、放ってはおけない。休日にこの程度の任務ですまないとは思うが、できるだけのことはしてくれないか」

 真っ先に頷いたのは、紫穂さんでした。

「わかった、つきあってあげる」
「うん、了解や」

 次に葵さん。二人は、そのまま皆本さんの腕を抱きました。

「ウチの大事なお姫様のワガママやもんな。しゃーないわ」
「だ、誰が姫だ!!」

 おどける葵さんに、皆本さんが怒ると、

「あら、自覚なかったの?」

 ポジションわきまえないとと、紫穂さんが笑いました。
 一人取り残された薫さんでしたが、任務を受けることに異論はありませんでした。
 問題はもっと別のこと。
 まごつく薫さんに怪訝な表情の皆本さん。迷った末に、薫さんは皆本さんの腕を指差しました。

「水着でそれはどーなのかと!!」

 性格には、皆本さんの腕に当たった二人の胸を指差しました。

「皆本が反応したらどおする!!?」

 薫さんの指摘に、葵さんは慌てて皆本さんから離れましたが、紫穂さんはキョトンとした目で突如として薫さんが乙女モードに突入したことを不思議がるばかり。
 引き離しながら、「もう子供じゃないし」と説明しながらも、薫さんは胸が当たっていたことを再び抗議しました。

「やーね、当たってるんじゃないわよ。これはね、」

 そして、本当にいい笑顔で伝家の宝刀を、

「あててん――」


 抜こうとしたところで、

「予定地点に停止完了――!!」

 打ち切られました。




 
 さっさと外に出ろロリコン野郎、羨ましくないぞロリコン野郎、男所帯だからってローボールには手を出さないぞロリコン野郎。
 そんな感じに追い立てられた皆本さんとチルドレンを待っていたのは、

「何これ?」

 四人が乗り込んだのは、白い船体に、人力駆動のエコ仕様。細長い首が視界の邪魔だけどチャームポイント。
 申し訳無さそうに皆本さんが答えたのは、「スワンボート」の一言でした。
 いつもなら、ヘリだとかジェットスキーだとかと訝しがる紫穂さん。自慢の運転テクを見せられるところですが、人力駆動のスワンボートとあっては、テレポーターだから運動不足がどうのこうのな葵さんと、皆本さんに任せざるを得ません。
 そんなわけで、足に乳酸が溜まって来た皆本さんの言うところでは、規模が小さく発生確率も低い今回の任務では、潜水艦へ演習ついでに便乗させてもらうぐらいで、たいした予算が出ないらしいのです。
 遠足のときわざわざ秘密基地を作ったり、何かというとAチームを動かして結果的に自衛隊に人材を供給したりする局長の予算浪費を愚痴る薫さん。
 しかし、皆本さんはたしなめました。局長が最近苦労していることは、皆本さんも目の当たりにしてきました。何百兆円で出したいの出せない自分が不甲斐ないだとかなんだとかで、禁断症状を起こしそうなぐらいに震えていた局長。
 そんな局長の精一杯の誠意が、スワンボートの頭部に王冠をつけること。その誠意が、尚更、バベルの苦境を引き立てているようでした。
 ――おそらく政府内でのバベルへの……というよりエスパーへの、風当たりがよくないんだ。
 自分より強大な力を持つエスパーの存在は、本能的なレベルで怖いもの。事実チルドレン達も、学校では友人達と仲良くやっていますが、しかし、それは超度を低く言って得られている平穏。本当のこと、超度七であることを告白したときに、受け入れてもらえるか、皆本さんには自信が持てませんでした。

「へ~バベルのエスパーなんだ?」

 そんな物思いに浸っていたからでしょう、一隻のゴムボートが近づいていることに皆本さんは気がつきませんでした。
 慌てて、声に振り向くと、髪をどぎつく染めたり脱色したり、その風体やら雰囲気やらを一言で言うとチャラい男が二人と女が一人。
 知らない間に、三人と話が弾んでいたようで、任務を手伝うだとか、仲良くどうだとか、三対三で人数もよくねえ? だとか、そんな話に。薫さんが満更でもなく迷えば、葵さんと紫穂さんも、あっちの男がどうだこっちの男がどうだと、そんな感じ。

「あのね、」

 チルドレン三人が迷っているようなので、皆本さんが答えを出してあげることにしました。

「仕事中のエスパーをナンパすんなー!!
 お前らみたいなチャラ男の受け入れは拒否する!!」

 ついでに空に向って威嚇射撃。
 あっという間に逃げ去るチャラ男たちに「ったく」と鼻を鳴らす皆本さんとは反対に、チルドレン達はなんだか上機嫌。

「そーんな怒ることないじゃん」
「今のはヤキモチ!?」
「一般市民とのコミュニケーションも大事やで?」

 そんな三人を一叱りし、なお収まらない怒気を、子供をナンパしたチャラ男達にぶつけていると、チルドレンは一層嬉しそうに言いました。

「ついこないだまで小学生だったようには見えなかったってことじゃね?」

 笑う三人に、皆本さんは一瞬黙り、

「く……くだらないこと聞くんじゃないっ!!」

 そう話を切りました。
 本音としては、チルドレン達も成長期。女らしくなってきたことは認めてはいます。けれども、皆本さんからしてみれば、成長したからといって、一〇歳から面倒を見てきたという事実があれば、そこに色気を感じることは難しいことでした。
 そして、そんな本音は例によって紫穂さんの力でダダ漏れ。これまた例によって、薫さんからお仕置き。

「やーめーろー!!」

 今回のメニューは、海という場所柄を活かした器具無しの水上スキーでした。
 こうして、水上を滑る皆本さんには、自分達を狙う不穏で普通な影がいるとは、そして彼等と既に会っていたとは、知りようも気付きようもないのでした。


 












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