しっぽきり

一本目 雪乃専用エスパーの真っ赤な誓い。
二本目 上二人も、ダブルフェイスを似たような感じに。


 ドッ――!
 フィギュアもいいけどプラモもねな九具津さんや、年上二人に男の子の真実について慰め教えられていたカズラさんも、ヘッドホンをしていたパティさんも、外にいた葉さんも紅葉さんも、真木さんも気付くぐらいの轟音がカタストロフィ号に響きました。

「お客さんがお帰りだ」

 少佐が言うのが先か、後か。船内に、戦闘配置の放送が流れました。
 喜ぶ子供達やら止めるマッスルさんやらコレミツさんやらを横目に、少佐は図書室へとワープ。
 そこで目にしたのは、みっしりとうず高く重なった本の山。それの下敷きになったカガリさん。
 彼は、女王が逃げ出した。呻くようにそう報告し、止められなかったことを詫びてきます。ウツミさんは、本がたくさんあるし彼女の力を見誤っていたので、自分が火を使わないように止めたことをすまなそうに説明するウツミさん。

「今、澪が追ってます」

 少佐が、責任を果たそうとしたカガリさんに「ご苦労さん」と労いの言葉をかけていると、

 『京介……! ここにいる僕は実体ではないようだな。そにその髪はいったい……』

 数十年ぶりに見る切迫した表情のウツミさんが話しかけてきました。
 しかし、その緊張をすぐに解いて、質問を取り消しました。

『いや……聞くのはよそう。たぶん……いろいろあったんだろうな』

 苦く笑うウツミさんに、兵部少佐は何かあったらしいと察しました。そして、それは彼が差し出した古ぼけた、今となっては彼の根源と言っていい日記に書いてありました。
 女の子らしい可愛い筆跡の『あたしのことおぼえててね』という彼へのメッセージ、そして『京介のバーカ 次はタイホしちゃうぞ!!』という自分への警告。
 呆れつつも自分がやりすぎたかもしれないと軽い後悔を浮かべる兵部少佐、彼を冷やかす桃太郎。
 ウツミさんは自分が感じ取ったことを、付け足しました。
 仲間や家族への愛情や、彼を不二子さんに会わせたいと思ったこと。なにより、薫さんが兵部少佐のことも心配していることも。

『僕にできることは何かある?』

 心配してくるウツミさんに、それが無用であると答え、兵部少佐はこの文章を消しておくと伝えました。
 しかし、今度はウツミさんが、それが無用であると言います。

『幽霊にも未来は必要だ。
 君には理解できないかもしれないが』

 答えの代わりに別れの挨拶を残して、兵部少佐は、ノートを閉じてウツミさんを消しました。
 自分と彼が、肉体の有無という違いがあったとしても、そんなものはささいな違いに過ぎない、よく似た存在であることを。

「カガリーっ!?」

 感傷に満ちた室内の空気を破ったのは、駆け込んできた少女の少年を呼ぶ声でした。
 そして、ちょっと前まで本の下敷きになっていたのでカガリさんがグッタリしているのを見て、彼の首を絞めんばかりの勢いで、事態を察し、捲したてはじめました。
 カガリさんは女王にやられた、みんなに相談したら男の子にはやむを得ない生理的反応とアドバイスをもらった。
 事実としては、何も間違ってはいませんでしたが、カガリさんの言うみんなが、自分をいつもからかってくる年上の女性陣であることは、すぐに察することができて、そして、

「これからは好きなだけ前かがみになって!!」
 
 とトドメを刺されれば、怒るしかないのでした。




 
 澪さんは自分を振り払おうとする薫さんの腕を、断じて放すつもりはありませんでした。
 場所は何の目当てもない海の上。一度振り落とされてしまえば、薫さんには追いつけないでしょう。
 だから、「放せ」と叫ぶ薫さんに、澪さんは必死にしがみついていました。
 このまま行かせてしまえば、薫さんはバベルにカタストロフィ号のことを、自分達の家のことをバベルに報告するに決まっているのです。そう口に出せば、彼女もそれを当然のことと、ウィンクまでしてみせまし。
 
「裏切り者ー!!」

 薫さんも、そしてなにより叫んだ澪さん自身も、その叫びが見当外れな叫びであることは知っていました。
 澪さんは犯罪組織パンドラのエスパーで、薫さんはそれを取り締まるバベルのエスパー。
 自分達が敵同士であることは、澪さんも承知していました。
 それでも、

「あんたはあたしの――と……とも……」

 澪さんは薫さんへの感情を止めることができませんでした。
 それでも、天性の性格からか、言いかけたまま口ごもっていると、その感情を、

「澪。あたしもあんたのこと好きだよ」

 薫さんが代弁してくれました。

「友だちだって思ってる」

 同姓の澪さんから見ても、息を呑むような綺麗な笑顔で。
 思わず、薫さんにしがみついていた腕と足の力が緩みました。同時に、薫さんが高度を下げて、水面に澪さんを押しつけました。

「わっぷ……!」

 海水の抵抗を受けて、引き剥がされた澪さんが、水色と白の横縞であることを確認しつつ、薫さんは笑って言いました。

「でも、今のまま一緒に遊んだりはできない……!
 あたしは「ザ・チルドレン」だから!」

 そして、自分をバベルに誘いつつ、遠ざかっていく薫さんに、澪さんは「バカーっ!!!」と叫ぶのでした。
 と、それを打ち消すように空気を切り裂いて薫さんに迫る影。
 見上げれば、糸を引くような煙で曲線を描いて飛んでくるのは、ミサイルでした。
 自分に迫る危険には薫さんも気づいていたようで、飛行速度を上げはじめました。
 
「薫……!!」

 不安と恐怖に捕らわれた澪さん。

「放っておきな! 帰るわよ!」

 そんな彼女を、突然現れた紅葉さんが、反論を許さずに連れ戻しました。
 海面に浮いていた澪さんが次の瞬間に見たのは、更にミサイルを発射する潜水艦と、それを愉快そうに指揮する兵部少佐でした。
 
「少佐!? なにすんのよ!?」

 彼女を常に気にかけていた少佐が攻撃を命令していることに混乱する澪さん。桃太郎も同じく抗議。ですが、兵部少佐は平然と、「大丈夫だよ」と笑いました。
 桃太郎から双眼鏡を借りて見れば、たしかに振り返った薫さんは怒っていたものの、元気そうで、また一つミサイルを打ち落としていました。

「テスト前で忙しいんだ。あのまま行かせてやろう」

 淡々と続ける少佐に割り切れないものを感じつつも、大丈夫そうだし、そもそも薫さんはともかく薫さんのテストの点数自体は割とどうでもいいことを思い出したので、澪さんも納得することにしました。

「予定通りだよ。バベルには先入観を植え付けるんだ。「パンドラは海にいる」……ってね」

 意味が分からない言葉に首を傾げていると、「念動能力者配置完了!! アンテナ作動」というアナウンスに続いて、聞きなれた声が船内に響きました。

「よーし、フィールド全開!! 念動エンジン始動!!」

 それまで制止していた船に、かすかなエンジンの振動音。それは徐々に高まっていきます。

「カタストロフィ号、発進ッ!!!」

 そして、真木さんの朗々とした声を合図に、カタストロフィ号は浮かび上がりました。
 
「知らなかった……」

 カタストロフィ号が飛べる事実に、同じく知らなかった桃太郎とともに唖然としていると、兵部少佐は澪さん達を促し、イタズラっぽくこう言いました。

「エスパーはどこにでも行ける、ククク……」


 
 そして、ミサイルを撒いている内に、大西洋で米軍に保護されフロリダ送りとなり、グリシャム大佐に呆れられつつ、すっかり日本文化に精通したケンさんとメアリーさんのリアル教科書の外国人をBGMに勉強をはかどらせていたころ、日本ではコメリカ軍からの一報に、テスト前に問題がふりかかってきたことや、テスト勉強のはかどり具合に桐壷局長が肝を冷やしていたり、クーデターのことを手土産に寝返ろうかと朧さんが算段していたり、とりあえず教育者としての自信を回復させた皆本さんが不幸を予感していたりするのでした。
 



 












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