しっぽきり

 「禁」を「淫」にするかどうかで迷ったとか迷わなかったとか。
 まあ、年齢制限の遥かに手前ですが、それっぽい感じの表現があるのでご了承ください。
 
一本目 ボクシングでよく急所とされる部位に、こめかみ(テンプル)やみぞおち(リバー)、顎(ジョー)とあともう一つ、顎の特に先端部分を――そうそう、ボクシングといえばはじめの一歩はなんなんでしょう。二勤一休なのはまだいいとして、いかにも欠き終わったところまで載せてみましたみたいなヒキなんて欠片も考えてない一二ページぐらいの掲載をされてもどうにもこうにも。そもそも引っ張りまくってるけど一歩対宮田戦はやらないのもアレだけど、特別見たいかと聞かれれば大してそうでもないんだかなくないんだか。で、何の話でしたっけ。おちんちん?
二本目 双子的な意味合いで考えれば、名前を誤植するのも無理は無いぞ、幸生くん!!



 携帯電話のモニターに映る線の細い青年。ほたるさんと奈津子さんは、それを見ると歓声をあげました。

「あら、いい男ですね、管理官!!」

 たまたま起床時間がダブルフェイスの二人と重なったので、今日は外飲みな管理官は、古い友達を誉められたことに満足そうに頷くと、その画像の経緯を話し始めました。
 バベルの資料室で偶然見かけたのを手が空いていた谷崎主任の隣にいたとても忙しそうだった皆本さんに頼んでコピーさせたこと、彼は軍の超能力部隊に所属していた頃の同僚だということ、後ろのオカッパ頭の目の修正は頼みもしないのに皆本さんがやってくれたこと。

「彼は情報分析と暗号解読のプロ。
 宇津美清司郎……髪と文字を操る合成能力者よ」

 そして、どこか遠いところを見るような目で、当時のことを語りはじめました。
 

 コメリカとの戦争が、敗北という結果に傾きかけていたあの頃。
 幸か不幸か、ようやく日の目を見た超能力部隊でしたが、しかし彼等の超常の力をもってしても戦況は好転しませんでした。
 そんな泥沼の中の、最大の戦闘の一つ。受傷した不二子さんと彼女を抱える京介さんは信じられないものを見ました。
 それは黒煙を上げる一隻の戦艦。
 戦艦が沈むところは何度も見てきました。問題はその数。投入できる限りの戦力が注ぎ込まれたはずの連合艦隊。撤退したのか、それとも轟沈したのか。とにかく、その艦隊は今、沈むことが約束された一隻を残して海域から消えようとしていました。

「連合艦隊が……壊滅した……」

 呆然と呟く二人。しかし、戦場は二人に自失の時間すら与えてくれません。
 彼等からすれば目障りな超能力者である二人を排除しようと近づく、三機の戦闘機。
 逃げる一手の京介さんですが、相手は三機。それも、負傷した不二子さんを抱えているとあっては、逃げ切れるものではありません。
 二人がごくごく近くに死を見つけた瞬間、白い何かが舞い上がりました。その白い何かは、まるで命をもったように戦闘機に近づいていき、そしてキャノピーに張り付きました。
 
「蕾見くん、京介!! こっちだ!」

 戦場には不似合いな優しい声。声の主を発見すると、二人は同時に叫んでいました。

「宇津美さん!」

 歓喜の叫びを受けて、微笑み頷く彼が立っていたのは、青く広い海に浮かぶ白く小さな船。
 
「しばらくはこれが僕らの母艦だよ!」

 普段は嫌悪の対象でしかなかった報告書や命令書で作られた紙の母艦。
 水に浮かぶそれは、大きさにおいても強度においても、今まさに沈み行く戦艦とは比べようもありませんでしたが、二人にとってはどんな巨大な空母よりもも安心できる最強の戦艦でした。


 

「まさかそれで本土まで帰ったことなんてことは……」
「ミッドウェーから?」

 恐ろしい想像に苦笑いする二人に、答えたのは恐ろしい記憶にもっと引きつった苦笑い。
 長い長い航海。雨水と魚でしのぐ生活。敵の潜水艦との遭遇。寝相の悪さでダイブした夜の海の冷たさ。
 今思い出しても身震いがするぐらいですが、とにかく過ぎた思い出。
  
「結局そのあと戦死しちゃったけど――」

 そこでふと、久しぶりに思い出した彼のことでこんな仮定が思い浮かびました。
 人格の一部を本に移すことができた彼。それなら、彼の日記が残っていれば?
 ですが、若い二人の興味は不二子さんと宇津美さんの関係に移っていたようで、好奇心を隠そうともせず尋ねてきます。
 そういう話がキラいじゃないというよりは、そういう話ばかりして皆本さんには若干キラわれ気味な管理官は、「ヒ・ミ・ツ」と笑いました。 

「ていうか、あなたは今まで自分が食べたパンの数をおぼえていて?」
「う……うわ!! 管理官が言うと冗談に聞こえない……!」
「ひ、昼に何かを食べたかぐらいしか」
「あはは、不二子は……あれ? 何食べたっけ?」
「管理官が言うと冗談に聞こえない……」



 
 そんなわけで残していた日記を何度も何度も有効利用されることになった宇津美さん。その能力は、本の内容を伝えるだけではなく、その本に込められた思いを透視することも可能でした。本人曰く『正確には作者と読者の心を共鳴させるんだよ』とのことでした。
 快く協力してくれそうな、先輩エスパーに好感を持つ薫さん。しかし、そんな彼女に澪さんは耳打ちしてきました。
 昔の記憶しかないんだから。余計なこと言うと混乱してややこしくなるよ。
 日記の中に残る宇津美さんは、とある時点で区切られた宇津美さんであって、開かれるそのたびにリセットされる存在。彼の中では戦中の時点で、記憶は止まっているのです。
 なるほどと納得する薫さん。

『で、君は何を読んで欲しいのかな?』

 尋ねてくる宇津美さんに、薫さんは、なんか話を聞いてる限りどうにかなりそうし、もうちょっとぐらい余計なことをしてみっかなあ、という気分で本棚に目を走らせまいsた。そして直感的にその中から朱色と金のカバーの本を抜き取り、宇津美さんに手渡し、読んでくれるようにせがみました。
 読み始める宇津美さん。
 優しい声音。肌蹴る義姉の服。荒々しい呼吸の僕。流される義姉。微かな衣擦れの音。軋み。落ちる、花。
 呆けたように真っ赤な顔になる子供達と、あまりにアレな文章に読むのを止める宇津美さん。

「なぜこんな本がここに?」

 少なくとも自分はこんな本を買った覚えがありません。なので、パラパラとめくりヒントを得ようとする宇津美さん。
 巻頭の真っ白なページで手が止まりました。
 そこには、目を引く赤いキスマークと共に、こんな伝言が残されていました。

 宇津美くん
 女に興味なさすぎ!
 これ読んで勉強しなさい!!
  不二子

 思い出したのは、入院したときに不二子さんが暇つぶしにと何冊か本を持って着てくれたこと。
 蜂蜜の壷を持ったクマの童話や、肉に棒を刺して焼き上げるブナジル伝統の肉料理の作り方などに混入していた一冊の存在に宇津美さんは気付けませんでした。
 不二子さんが選んだ本であったことに驚く薫さん。無数の蔵書の中から本能でその一冊を選んだ薫さんに驚嘆する澪さん。教育上の問題から、禁書指定をする宇津美さん。それに、とっても教育的、性教育的な意味で反抗する薫さんですが却下。
 そんな、てんやわんややってる輪から離れて、カガリさんは知らん顔で座りこんでいました。
 それに気づき、怪訝そうな顔のカズラさん。
 薫さんは、彼女に真実を耳打ちしてあげました。彼は立たないのではなく、立てない、いや、たっちゃいるけど、ということをごにょごにょと耳打ちコピペしてあげました。
 そして、真実を知った彼女は、

「カガリ最低!! いやあああ!!」

 と走り去っていきました。
 あらかわいいと、マエストロの笑顔で彼女を見送る薫さんは、未来の女王の優しさで「年頃の男の子だからしょうがないよね。むしろ健全なことだよね」とカガリさんをフォローしてあげました、が怒りに油を注いだだけ。
 そんな薫さんに、いい加減キレ気味の宇津美さんと、すっかり激怒中のカガリさんは「真面目にやらないなら帰れ」と抗議。さすがに、引っ張りすぎなことを察したのか、薫さんも渋々それを承諾し、ようやく本題であるテスト勉強に移ることにしました。
 取り出したバベルマークのテキストを宇津美さんに渡す薫さん。
 宇津美さんは、手に取り流し読むと、感心したようにうなずきました。

『教科書よりこっちの方が良さそうだね。作った人の思いを強く感じる。君の先生かな?』

 テキストの内容を評価し、宇津美さんは、念を込めるために、集中しはじめました。
 手持ちぶさたになった薫さんは、ふと澪さんの横顔をのぞきました。

「何よ?」

 それに気づき居心地の悪さを覚えたのか、口をとがらす澪さん。

「……別に」

 答えて薫さんは思いました。
 犯罪者ってわかっててもあたしは……こいつらが嫌いじゃない。
 冗談を言えば笑いもする、照れたりもすれば、怒ったりもする。
 彼女たちと自分にどれだけの違いがあるのか? 
 
『ヤツが殺害した元・陸軍超能部隊の関係者よ』

 兵部少佐と自分は違うのだと薫さんは思いました。
 彼にどんな理由があったのか? 怖くて踏み込むことができませんでした。しかし、知る必要も、知ったからといって変わるつもりも薫さんにはありません。
 あたしはバベルのエスパーだもん! パンドラの女王になんかならない。
 兵部少佐の愛は、仲間のエスパーだけに注がれているけど、自分はノーマルの皆も同じように愛せる。
 薫さんはそう信じていました。





「少佐」

 子供達のお守りを押し付けられて自棄になった葉さんが、じゃれてくる彼らをプールへ放り投げる音や、一人くつろいでいた紅葉さんがそれに抗議する声。騒音に顔をしかめつつ、真木さんは兵部少佐の真意を確かめようとしていました。
 なぜ女王は船のことをバベルに話さないと思うのか?
 しかし、兵部少佐は何を聞いて来るんだコイツといわんばかりに、としながら答えました。

「さすがにそりゃ無理だろ」
 
 キョトンとする真木さんに構わず兵部少佐は続けます。

「犯罪エスパーの本拠地だぜ? バベルに黙ってたら裏切り行為じゃん!」

 仲間になるのはもっと先。世界情勢がキナくさくなってから、追い詰められて他に選択肢がなくなって云々と、彼女が話す理由と今は仲間にならない理由を滔々と説明した後、呆れ顔で締めくくりました。

「見通し甘いなあ、真木は。人が良すぎるっつーか、単純っつーか」

 会話がかみ合わない挙句にバカにされたとあっては、さすがに真木さんもブッツン。

「あんたが言ったんじゃん!? 彼女も秘密を作れるって!!」

 たまの休日のはずが、兵部少佐に振り回されてばかりなことや、言動が安定しない少佐に怒る真木さんですが、よくよく考えてみればそれがいつもなこと。そんな自分の立場に心底ガックリしつつも、どんなに叱っても改める様子がないのもいつものことなので、辛抱強く兵部少佐が何を考えているのか尋ねてみました。
 以前のように記憶を消すのかと問うと、違うという答え。試験前に記憶を消すような鬼じゃないと、(少なくとも今の真木さんにとっては)小バカにしたような顔で笑う少佐。
 そして、その笑みの色を変えて、言いました。

「あいつと違って、僕はあの子を一人前に扱う。以前のようにただ甘やかしてばかりはいないさ。今回はちょっとばかり罠にはめさせてもらう」

 そんな笑顔を見せられてしまっては、真木さんにできることは、何かをたくらむ兵部少佐に驚かされぬよう、心の整理をしておくことだけでした。






『終わった。これでこのテキストは命を持った』

 読めば普通よりはるかに意味がわかるはず。そう言ってかすかに異能の力を発するテキストを差し出す宇津美さん。
 
『その心を感じてごらん』
 
 宇津美さんの言うとおり、心をまっさらにしてテキストを受け取る薫さん。
 流れ込んできたのは皆本さんの強いイメージ。
 語りかけてくるのは、三人に勉強という作業ではなかく、皆本さんの学ぶ楽しさを伝えようとする精一杯の優しさと、自分がその役にたてるのなら嬉しいという純粋な思い。

「あいつ……こんなこと考えてこれ書いたわけ?」

 無機質な紙の束から流れ込んでくる、暖かな思い。

『そのイメージは僕が活性化した行間から、君自身が読みとったものだ。
 文章を読むのは透視するのとは違う。読み手の心がそれに共鳴してイメージを作る』

 宇津美さんは、穏やかな笑顔で言いました。

『ただのプリントから君はこんなにも優しい彼を読み取った――この先生のことが大好きなんだね?』

 薫さんは気恥ずかしさに顔をテキストで隠しながら、でも素直に、

「うん」

 と頷きました。
 ――そっ、か。
 そして、深呼吸を一つ。微かに甘いインクの匂いを胸一杯に吸い込むと、澪さんに振り返りウィンク一つ。

「ごめん澪。あたし、帰って勉強するわ」

 そう宣言しました。
 ここで勉強したほうが効率がいいと訴える澪さんに、薫さんは右手をかざしながら言いました。

「テストが大事じゃないの。あたしには――期待に応えたい人がいるんだ」

 












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