しっぽきり

一本目 無双ドジっ子追加のターン。
二本目 性悪男の娘追加のターン。


 薫さんが昼夜逆転するぐらい遠くの海でクルージング状態という史上マレに見るレベルで試験前の余計なことをしている一方、残された葵さんと紫穂さんは、こつこつと普通の勉強中でした。
 本来の家庭教師役だった天才皆本さんが役立たず中。とはいえ、代わりはお医者さんである賢木先生と十分すぎる代役でしたが、紫穂さんはご不満でした。
 テキストの情報を透視しても役立たず、文章もちゃんと読め。
 れっきとした経験からのアドバイスでしたが、紫穂さんの目には先輩面して上から目線のアドバイスに感じられて仕方ありません。

「うるっさいわね!! 先生は教えてくれなくていいって言ってるでしょ!?」

 なので反抗してもみますが、賢木先生が実績持ちなのもたしか。葵さんや薫さんに負けると脅されたり、ESP使う小技はほかにもあるとか釣り針垂らされては心中穏やかではありません。
 なので、教えてとは言わないまでも語るがままにさせ、得意気に喋らせておくことにしました。そして、賢木先生もそんな紫穂さんをニヤニヤと見ながら、ご期待通りにうんと得意気に語ってあげるのでした。
 そんなサイコメトラー同士がよろしくやっている好機を葵さんは見逃しませんでした。
 
「みーなーもーとーはん」

 学問の天才としてのプライドをへし折られ、すっかり家事の天才モードに突入した皆本さん。紫穂さんは賢木先生にかかりきりだから、教えてほしい。

「できたら皆本はんの部屋で」

 が、葵さんのアプローチを見てまで賢木先生に得意気に語らせておく筋合いは紫穂さんにはありません。

「この自称カマトトがあああっ!!」

 なので、ギャルゲーじみた芝居の葵さんを鉛筆で猛烈に乱打。
 そして、詰めの甘さを指摘し、お手本を実演して見せました。

「静かなところで集中して教わりたいんだけど……どこかいい場所はあるかしら?」

 男のほうから結論を口にさせることで、引き返しがつかないように絡めとる。
 紫穂さんの方法論に思わず納得の葵さん。「なんの勉強してんだ」と思わず叱る皆本さん。
 そんな皆本さんでしたが、役立たず扱いされた心の傷は深いようで、無駄に凝った料理を作ることでそれを埋めようとしていました。そんな足にまとわりついてくる子犬のような態度が案外めんどくさいもんだなと、二人は思うのでした。



 一方、豪華客船カタストロフィ号。
 成績上げのベストスポットに向かう途中のホール。
 先頭を歩く兵部少佐に、並んで案内されていた薫さんが足を止めました。

「何あれ、すごっ!!」

 紅葉さんが彼女の視線を追うと、そこには見るからに柔らかそうな、錨でまとめられた革張りの椅子。豪華な装飾が施され、ホールの中心に据えられたそれはまるで玉座のようです。
 過去から掘られた未来の為の椅子に興味を示す薫さんに、紅葉さんはサングラスの下の目を細めました。
 沈没船から回収したもので、今はこの船のシンボルになっている。
 そう語ると、兵部少佐はいたずらっぽく笑いました。

「ちょっと座ってみる?」

 経緯や雰囲気やらに気後れする薫さんですが、兵部少佐は「そう言わずに」と更に促します。
 
「カガリ、エスコートを」

 自分達のリーダーが言い出したら聞かない性格なことを重々承知している紅葉さんは、カガリさんの肩に手を置きました。
 自分にお鉢が回ってきたことにあわてるカガリさんでしたが、少佐が頷くのを見て、覚悟を決めました。

「て……手を」

 一歩踏みだし、右手を差しだし薫さんを誘うカガリさん。
 エスコートというなんだか芝居がかった行為に照れる薫さんですが、紅葉さんは「豪華客船だもん」と薫さんが持っていたバッグを取り上げました。本当にそうなるのなら、こんなものは必要のないものです。

「そ……それじゃ――」

 カガリさんの手を握り、引っ張られるがままに歩を進め、薫さんは玉座に腰を下ろしました。
 そして、いくつもの視線に見上げられ、それらをスッと見渡し、自分をエスコートしたカガリさんに笑んで感謝しました。

「ありがと。カガリ」

 魅入られている。カガリが、いや、それだけじゃない。
 
「い、いつまでやってんのよ、イヤラシイ!」
「あ、あたしが一瞬見とれたりするとでも思うのっ!?」

 カズラさんが薫さんの手を握るカガリさんを引き離せば、澪さんも薫さんの背後にテレポートして薫さんを玉座からおろしました。

 直視してはいけない。

「真木さん、俺らまでついていくこたねーでしょ。せっかくの休みだし、球でも突きましょーよ」
「……そうだな」

 葉さんと真木さんが、これまでの勝敗のことやルールのことを口にしながら、こちらには振り返らずにホールを出ていきました。

 望んではいけない。

「そうね。私はひと泳ぎしよっかな」
「いいよ。ご苦労さん」

 兵部少佐は笑って、席を外すことを許してくれました。

「……ったく、イタズラがすぎてよ、少佐」

 彼女がそうなったら。自分達がそうだと認めたら。そうなった時、少佐はどこにいる? どこに?
 それを考えてもなお、あのとき自分達を見渡した少女に、未来の女王の影を見ないわけにはいきませんでした。
 自分達はそれを認めるだろうか? 彼女はそうさせるだろうか?
 彼女は、おそらくはそうで、在る。
 だから近づいてはいけないのだ。

 そうなる未来は。





 流れる軽快な音楽とは裏腹に、重く重くそれは動く。
 情念を刻み込むように。
 彼女は夢想し、そして絶望する。
 あるべき姿と自分が表現したそれを比べ見て絶望する。
 それでも止まるわけにはいかないのだ。
 それでも表現しなければならないのだ。
 自分でそうしなければ、満ち足りることなどないのだから。



「パティ!! ヘッドホンつけるか、カラオケ室行けっていつも言ってるでしょ!!」

 澪さんがドアを叩くと、言われた通りヘッドホンをつけたのか、程なくパティさんの部屋は静かになりました。不思議そうに薫さんがしていると、カズラさんが肩をすくめました。

「あのコ、追いこみになるといっつもうるさいのよ」
「追いこみ?」
 
 彼女も把握しきれていないのか、今度は答えてくれませんでした。

「さ、ここだ」

 少佐が足を止めたのは壁という壁に本棚そして本が敷き詰められた部屋でした。
 学校の図書室以上だ。
 息を吸うと、古い本の放つ独特の匂い。

「我々の学校はまだ他の場所にあるけど、ここにも情報と知識、それに優秀な教師がいる。ウツミさん!?」

 説明する少佐について、部屋の奥に入っていくと、そこには多くの様々な色の肌や瞳、髪をした子供達と、どことなく希薄な存在の青年がいました。

『どうした、その髪は!? なにがあった!?』
「いやまあ、いろいろありまして」
『蕾見くんは一緒じゃないのか!? ……!!
 そういえば――ここはどこだ? この部屋、陸戦病院じゃない……!?』

 蕾見くん……ばーちゃんのこと?

『ひょっとしたら僕は――』

 自らの居場所に青年が違和感を感じると同時に兵部少佐は古ぼけたノートをパタンと閉じました。
 一瞬に青年は消えました。代わりに子供達はブーイング。
 子供達をなだめながら兵部少佐はこう条件を出しました。

「このおねえちゃんたちがちょっと先生に用があるんだ。君らは僕と遊ぼう」

 兵部少佐と遊べる!
 それを聞いたとたんに子供達の目の色が、非難から歓喜に変わりました。

「終わったら呼んでくれ。薫ちゃんを家まで送るから」

 抱きつき走り回る子供達のエネルギーにあきれつつも、兵部少佐はカガリさん達に後を託して、部屋を出ていきました。
 
「あんな子供もパンドラには大勢いるの?」
「そう、あたしたちと同じだよ」

 あんなにいっぱい。それもたぶん世界中から。

「そんなことより、勉強するんでしょ!?」

 咎めるようにそう言った澪さんがノートを開くと、再びウツミ先生が姿を現しました。

『やあ、君たちは誰?』

 穏やかな顔で語りかけてくる彼を、薫さんは実際にはいない、以前にインパラヘンで見た残留思念なのだろうと理解しました。
 そして、本に宿る特別な合成能力かもしれないこと、そして軍服姿から兵部少佐の昔の仲間かもしれないこと。薫さんが理解したのは、そんなところでした。
 そして、兵部少佐のことが、不二子さんのことが、そして昔のエスパーのことを、知ることができるかもしれないと、漠然とした期待を抱くのでした。



 一方、その頃兵部少佐は子供達を葉さん達に押しつけ真木さんが応援を呼んで子供達が葉さんを鳥の巣だとかバードだとか呼んだり、日本では無いものは隠すポーズを取ったり、あるものは強調するポーズを取ったり、皆本さんがカリキュラムを誉められて自信を取り戻したりしているのでした。












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