しっぽきり

一本目 共存方法ではなく、情報を得て捻り潰す気たっぷりのナオミさんでした。
二本目 名門・笹目一族の真実に迫る谷崎さんの巻。


 何か大切なことがかかっていたような気がする中間試験のための猛勉強中、薫さんは突然、皆本さんに教え方が下手だとクレームをつけて、部屋を出ていってしまいました。
 紫穂さんや葵さんは気にするなと励ましますが、天才皆本さんにとっては、教え下手と罵られたのは案外にダメージが大きかったらしく、教育道の険しさを思い知る皆本さんの脳裏に浮かぶのは、一万円札のアイツの姿。そんなわけで、使い物にならなくなった皆本さんの代打を名乗り出る賢木先生。
 しかし、薫さんの逃走と皆本さんの落胆振りに葵さんと紫穂さんが考えたのは、アホな薫、他の二人を排除すれば個人授業、折りよくケーキもあるしそこに盛れば勝つる。
 二人が牽制をし合っていると、その二人の携帯電話が同時に鳴りました。
 鳴らしたのはメール。送り主は薫さんでした。


 二人ともあたしがいなくてもぬけがけ禁止!
 ちゃんと勉強しろよ!?
 あたしの分のケーキは葵食べてね。
 そのかわり紫穂のめんどうみてあげて。
 紫穂は寝相悪いから、夜はお腹冷やさないようにね。
     薫

 二人は涙しました。
 本音、と思わせての冗談。
 そして、しっかりものの葵さんにも、ややルーズなところのある紫穂さんにも気遣いを見せる薫さん。
 こんな親友を裏切ろうとしたのか。自分達はなんとセコいことをしようとしたのか。
 二人は涙しました。


「さすが薫だ。やさしいね」
「あのコたちは大事な家族だもん」

 冗談めかした形の冒頭。
 そして、しっかりものの葵さんに甘い餌を与え、ルーズなところのある紫穂さんには細やかな気遣い。この気遣いが冗談めかした冒頭を無視できないものにするのです。
 「その脂肪が胸にいくといいね」や「いつも布団かけなおしてあげてるんだからね、揉むついでに」という文面を送信前にいれるかどうか最後まで悩んで、削除した薫さんはにこやかに笑って付け足しました。
 牽制。
 女の子って、中学生でも女性なんだなという事実に身震いしつつも、薫さんの「何の用?」という質問に答える兵部少佐。
 女子中学生ニツキマトウ変態老人。
 桃太郎視点ではそんな感じでしたが、そんなモモンガを指で弾いた兵部少佐曰く、通りがかっただけ。用事を片づけた帰りに上を通ったら、たまたま出てきた。
 ソレハすとーきんぐ。
 そう水を差す桃太郎に強めのスキンシップを取りつつ、説明す兵部少佐。

「あたしたち、忙しいんだから、面倒は起こさないでよ? 用事って何?」

 どうにも緊張感のないやりとりに呆れつつも、犯罪組織のリーダーであるところの兵部少佐の用事とやらを見逃すわけにもいかず、とりあえず聞いてみる薫さん。
 テロの下準備か、はたまた銀行強盗か。

「不動産屋を回って部屋を借りたんだ」

 答えはひどく日常的でした。
 独り暮らしでも始めるのかと理由を知ろうとする薫さんに、兵部少佐は首を横に振りました。
 ならば、何のために? 問おうとした薫さんでしたが、そこに邪魔者が二人。

「待ち合わせ放ったらかして何やってんですか!?」
「げっ!! 女王じゃん!?」

 紅葉さんとカガリさんでした。
 目の前の状況に、紅葉さんは兵部少佐が姿を消したことへの怒りが、カガリさんは薫さんがいることへの驚きがそれぞれ上回るようでした。
 そんな二人を受け流し、兵部少佐は薫さんを誘いました。

「散歩の途中ならちょっとウチに寄らない? 以前招待するって言ってそのままだから」

 驚く紅葉さん、動揺を隠せず臨戦態勢のカガリさん、そして誘われた本人である薫さんは、

「今……忙しいんだよねー」

 という流れ的には断る方向の言葉を口にしつつも、内心は忙しいのに余計なことをしたい気持ちで一杯でした。
 どうしようか、どうしようか。
 今度の試験にはそこそこ重要そうなものがかかっていたような気もしますが、それよりは貴重な時間をドブに捨ててしまいたい気持ちもあります。
 そして、薫さんは。



 マンションの一室にいました。目隠しをして。
 
「さ、もういいよ。目隠しをとって」

 促されて薫さんは、目隠しを外しました。
 閉ざしていた瞳に流れ込んでくる光。細めた目を慣らすと、そこは何もないガランとした普通のマンション。
 アジトと聞いて連想していた、機密書類の山もなければ、連なるコンピューターも、なにもありません。さらには人っ子一人いない。肩すかしを喰らわされたのかと、薫さんが釈然としない顔をしていると、紅葉さんが種明かしをしてくれました。

「ここはただの入り口。アジトへの出入りは超能力を使うの」

 この間の一件で、部屋の一室どころか(株)ドラパン食品名義で借りていた
場所が、騒ぎであぶり出されて全滅したことを愚痴りながら、クローゼットを開く紅葉さん。
 そして、そこには低く唸りをあげる超空間。
 兵部少佐が自慢げに、仲間の合成能力者が作った空間ホールだと笑い、そこからテレポーター抜きでも長距離を移動できると明かしました。

「こういう場所はあちこちに用意してるのさ。さ、おいで薫」

 促し、薫さんの手を掴むと、超空間に足を踏み入れました。
 未知の経験に怖がる薫さんでしたが、「原理はテレポートと同じだよ」と力を緩めない兵部少佐に手を引かれるままに、超空間を通過する薫さん。
 次の瞬間、薫さんが肌に感じたのは太陽の光。
 鼻孔を刺激するのは潮の匂いの風。

「昼……!? 時差があるってことは……」
「そう、ここはもう日本じゃない」

 歩きだし兵部少佐を追うと目の前に広がったのは、広く青い海。

「ようこそ、薫……!! ここが我々の本拠地」

 振り向く彼に釣られて振り向くと、そこは船、それも巨大な豪華客船。

「カタストロフィ号だ」

 移動できること、超能力でレーダーや衛星から見えないようにシールドしていること。つまりは、発見するのは困難であるということ。
 その船のスケールの大きさ、そして海から浮上してくる潜水艦に、薫さんはパンドラの力は自分達が思っていた以上のものであることを知るのでした。
 驚く薫さんの横で、紅葉さんとカガリさんはこれから起こるであろう事態に頭を抱えていました。
 仲間になったわけでもない女王が、自分達の本丸であるカタストロフィ号の甲板にいる。
 それを知らないメンバーが見たら?
 そこに普段の黒いジャケットではなくTシャツ姿に飲み物片手でくつろいだ真木さんが、

「少佐、お帰りに――」

 吹き出しました、薫さんの姿に驚いて。
 続いて、紙パックジュースをストローで吸いつつひょっこり顔を出した葉さんが、

「お? なにやっての、みんな――」

 二吹き出し目。
 薫さんが飛沫をサイコキノで防御している隙に、真木さんが兵部少佐の腕を掴み、引きずるように薫さんから離れました。

「仲間になったんですか!?」
「まだ先だよ。すぐに帰る」
「じゃあ連れてきちゃダメじゃん!?」

 口調も崩れるぐらいに動揺しつつも、バベルへの情報漏洩を怖れ、問いつめる真木さんですが、「心配すんな」と兵部少佐に悪びれる様子はありません。

「彼女だってそろそろ……皆本に言えない秘密のひとつやふたつ作れるさ。
 まあ、見てな」

 促されて、薫さんの方を見る真木さん。
 そこには、

「え」

 三吹き目、四吹き目。
 コーラを飲んでいた澪さんと、アイスを食んでいたカズラさん。
 なりゆきでここにきた、と困ったように澪さんに説明する薫さんを、若干不憫に思いつつも、緊急事態とは思えない間抜けさに、危機感が少しずつ失せていく真木さん。
 そこにマッスルさん、九具津さん、黒巻さんが現れて、五、六、七吹き目。
 主要メンバーのほとんどが吹き出す事態。その事態に、さすがに気まずさを感じたのか、薫さんが「試験前だから勉強しなきゃ……」と帰ろうとしたその時、兵部少佐がイタズラっ子のように頬をゆがませました。
 そして、イタズラ老人は澪さんに質問しました。

「ところえ澪、今何か国語話せる?」
「えーと、4?」
「数学はどこまで進んだ?」
「まだ高校課程に入ったとこ」

 スラスラと答える澪さんに、薫さんがフリーズしました。
 あの、空気と人間の生き死にの因果関係を理解できなかった澪さんが。
 あの、バカバカ言い合って殴りあっていた澪さんが。
 四か国語をマスターして、自分より遙かに進んだ数学を修めている。
 愕然とする薫さんに、兵部少佐がもう一押し。

「ウチにはいろんなエスパーがいるんだよね」

 エスパーつまりは超能力の使い手。世の中には、小さな頃からこの世界にいる薫さんもまだ知らない種類の合成能力が山ほど存在します。
 ひょっとして? もしかしたら?

「ESP学習法」
「ウ……ウソ、マジ!?」

 存在するんだ? どんな方法? 時間は? 試験に間に合うの?

「たった五分で……おっとこれ以上は秘密」
「どうやるの!? どうやってこのバカを治療したの!?」

 目の前の餌に食いつく薫さん、目の前のバカにバカという言葉にバカっぽく食いつく澪さん。
 そんな光景に、真木さんは大丈夫かもしれないと、なんとなく胸をなで下ろすのでした。












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