しっぽきり

 鈍い衝突音、そして上がる砂煙。そして、ピシピシと上がる電気の放出音。
 ギルバートさんが友人に頼んでせがんでようやく造ってもらったバレープロ2000GTが、破壊されてしまいました、バレーボールで。
 そして壊したのは、

「このナイチチ!!」

 ギルバートさんが、栄養不足からくるか弱い女の子だと思ってばかりだったナイチチさん。
 そのナイチチさんの正体は、

「私の名前は桂、ヒナギク」

 学内には知らぬ者のいない完璧超人。

「白皇学院生徒会長桂ヒナギク。
 私はどんな勝負も負けたりはしないわ」

 まとめていた髪の毛をほどき、高らかに宣言するその姿に、ギルバートさんは自分のチョイスが致命的に間違っていたことを悟りました。
 土下座してまでビーチバレー専用マシーンの製作を頼み込んだ友人は、飲み会をした時こんなことを言っていました。
 白皇の生徒会長は優秀だと。
 かわいくて、頭がよくて人望がある。ノロケるようにそう語る友人に、生徒会長ならそらそうでしょうね、とフンフンと聞き流していたギルバートさんでしたが、その時友人はこんなことを言っていました。
 小さいのに、体育の成績もとてもいい。
 酔った頭で、その時は背が小さいのだとばかり思いこんでいましたが、今、ギルバートさんは、自分が酔っていて重要な情報を聞き逃していたかもしれないことに思い至りました。
 胸が小さいのに。
 思いだそうとすれば、思いだそうとする程、友人はそう言っていたような気がしてきます。
 そして、こんなことも言っていました。
 手首のスナップがすごい。カメラとかものすごいスピードで飛ばすぐらいにすごい。
 その手首のスナップがあるからこそ、あんなサーブが打てるに違いない。
 気付いてギルバートさんは愕然とし、思わぬ危機に陥ったことに焦りました。
 しかし、同時に自分の用意周到さに感謝もしていました。

「出でよ我がバレーロボ軍団!!」

 そう、友人に頼んでいたバレーロボは一機だけでゃありませんでした。
 頼んでせがんで、土下座に寝下座を繰り返して造ってもらったロボ軍団。質で勝てないのなら、数で勝てばいい。
 勝ってこそプライドは保たれるのです。

「ここからが本番! いくわよハヤテ君!!」
「はい!!」

 二人がどんなに力もうと、人の体。いずれ疲れはててしまうに違いありません。
 サービス、破壊。
 サービス、破壊。
 サービス、破壊。
 違いないはずでしたが、ギルバートさんは再びヒナギクさんのことを読み間違えていました。ヒナギクさんは、超人的な執事ともガチれるぐらいの人外クラスの女子高生。そのサーブを運良く返せたとしても、そのパートナーは、その超人的な執事。当然、これまた人外。
 そんなわけで、疲れる前にバレーロボ軍団は一機を残して壊滅。
 砂浜には、未だ怒りの収まらないヒナギクさんの殺気と、周囲の体勢は決したという安堵の気分が充満し、ギルバートさんの双肩にはこのままでは負けるという精神的な重圧と、次々と壊されていく仲間の姿におびえ、隠れようもない巨体を隠すように後ろにまわり、震える手で肩を掴んでくるバレーロボの手の物理的な重圧。
 このままでは負ける。負けてしまえば何かも失ってしまうギルバートさんは、必死に勝機を探しました。
 考えろ! 考えろ!
 そして、あることに気付きました。

「この試合には……重大なルール違反がありまス」

 コートの外からは「負けそうになったからって、駄々をこねていいのは小学生までだよね」的な視線が向けられますが、ギルバートさんは気にしません。そもそも気にする必要はないのです。ナギお嬢さまはたしかにこう言ったのですから。
 どんな条件であろうとも、ハヤテは絶対お前なんかに負けないのだ!!
 どんな条件でも。そう、つまりこの勝負のルールの決定権はギルバートさんの物。
 二対二のビーチバレー。もう一人の選手は自分が選ぶ。
 ギルバートさんが提示したルールは、ただそれだけ。それ以外のルールについては言及はしていません。そして、ナギお嬢さまやハヤテ君も、漠然としたビーチバレーのイメージだけで勝手に解釈し、何がルール違反かを確認してきませんでした。それは明らかに向こうの怠慢であって、対戦相手であるギルバートさんがそれに親切に説明してあげる必要なんて、砂粒の一粒もありません。だからこそ、破壊されたパートナーを次々に交換することも可能でした。
 当然、

「だってあなた……!! 水着で試合してないじゃないデスかー!!」

 ヒナギクさんの服装がレギュレーションに違反しているかどうかも、ギルバートさんの裁量に任されているのです。
 そんなわけで、水着でないことを指摘されたヒナギクさんは頬を赤くしだしました。
 ギルバートさんは、自分のヒナギクさんへの評価が正しかったことを知り、内心ほくそ笑みました。後は押し切るのみです。

「ビーチバレーといえば水着!! 女の子は水着で試合するのがルールのはずデース!!」
「ど!! どこにそんなルールがあるのよ!!」

 ヒナギクさんがそう非難してきても、ギルバートさんが付き合う謂われはありません。ナギお嬢さまの言質があるのですから、ルールの決定権はギルバートさんのもの。そもそも、ビーチバレーは水着でやるものなのは確定的に明らか。それを、いままで見逃していたのに、クレームをつけてくるのは盗人猛々しいとはまさにこのこと。
 そう、突っぱねるギルバートさんに、思わぬ味方が現れました。

「そーだそーだ!! 水着で試合をしなくて何がビーチバレーだ!! ビーチバレーなめんな!!」

 水着という単語に、GACHIYURI症候群の発作を起こした美希さんが、瞳を輝かせ頬を真っ赤にして援護してくれたのです。
 男がタキシードや執事服でも無問題。サービスにならないし、女子選手がビーチに転向すれば、ビーチの妖精扱いだけど、男子選手は「で?」ってレベル。
 言い張り、ねじ伏せ、水着にならなければ、ルール違反で自分の勝ちと宣言するギルバートさん。GACHIYURI・DEKOもビデオカメラのバッテリー残量を確認しつつ、自分に賛成してくれます。
 水着にならなければ負ける。そこまで言ってもヒナギクさんは、着替えようとしません。
 ギルバートさんは、自分の評価に確信を深めました。
 あの女はテレ屋さん!!
 ビーチバレーだと指定したのに、水着を着てこなかった件や、あと釣り目とか考えるにきっとそうだというギルバートさんの評価は間違っていませんでした。
 そして、テレ屋さんなら上手くいけば水着にならずに反則勝ち、よしんば水着になったところで、露出の多い水着でのプレーとなれば、その恥ずかしさから力が出し切れないにちがいありません。
 自分の完璧さに思わず笑いが漏れるギルバートさん。

「私の勝利は確定デース!!」

 ギルバートさんは、勝利の雄叫びを上げ、事情は分からないがなんだか優勢らしいと察したバレーロボも瞳を輝かせて大喜び。
 しかし、またもギルバートさんは読み違えました。というよりは、どうしようもない節穴さんでした。

「確定なんかしてないわよ!!」

 その叫び声に目を向けると、潔く脱ぎ捨てられた白いTシャツ。そして、これまた白いヒナギクさんの肌と、それを隠す星柄のビキニ水着。
 
「私の名前は桂ヒナギク!! どんな勝負も絶対負けたりしないんだから!!!」

 そう宣言するヒナギクさんに一瞬気おされるギルバートさんでしたが、考えてみれば不戦敗の目が消えただけ。テレ屋さんである彼女が本当の力を発揮できるかは未知数です。

「だがその姿で……真の力を発揮できるかな!?」
「うるさ――――――い!!!」
 
 発揮されました。
 怒声一発、ヒナギクさんの手から弾き出されたボールはバレーロボを直撃。その日、一番の轟音と共に、ギルバートさんの最後のパートナーは破壊され、二対二の勝負は続行不可能。ナギお嬢さまの、そしてハヤテ君とヒナギクさんのビーチバレーの勝利が確定しました。



「ヒナギクさん」

 全力でボールを打ち込んだ疲労と、勝利の興奮と、そしてハヤテ君の前で水着になるという気恥ずかしさに呼吸を荒げていると、そのハヤテ君が感謝してきました。
 その感謝の中に出てきた、遺産という言葉に戸惑いながらも、今の勝負がやはり重要なものだったらしいと直感するヒナギクさん。しかし、それを詳しく考える暇も、問う隙もハヤテ君は与えてくれませんでした。

「ところでヒナギクさん……さっきの件なんですが……」

 告白したいことがあるんじゃないですか?
 静かな林の中で問い詰められたあの時間。
 友人は伝えてもいいんじゃないかと背中を押してくれました。しかし、今のヒナギクさんにそんな勇気はありません。

「そ!! それはダメぇ!!」

 悲鳴にも似た声を上げて、ヒナギクさんは、その場を走り去っていきました。
 そして、それを見たナギお嬢さまは、なんだかよくわからないなりに、助けてもらったんだからとハヤテ君にお礼をしてやれと送り出してあげました。
 そんなことは露知らず、林を駆けていくヒナギクさんでしたが、足を止めました。
 そういえば……まだ何も解決していなかったわね……。
 せっかく得たか弱いチャンスも、バレーロボを次々となぎ倒す無双をやってしまったせいで手放し、ハヤテ君に、思いを告げるわけにもいかない。
 どうしたらいいんだろう?
 
「ヒナギクさん」

 迷ってるヒナギクさんをハヤテ君は逃がしてはくれませんでした。
 状況はさっきと同じ。林の中、自分を追いかけてきたハヤテ君。そして、問われることも同じ。
 ですが、一度知ったからといってスンナリ受け止められるようなら、恋なんてしません。

「それで、さっきの件なんですが……」
「待って!!
 私……!! 自分から言うなんて事……!!」

 そして、やっぱり告白はできませんでした。
 それが性格なのか、それとも勇気がないだけなのか。
 しかし、ハヤテ君は思いもよらない言葉を口にしました。

「わかってますよ」

 何を?
 やっぱり、そう、なの?
 受け入れて、もらえるの? 

「だから……前々から思ってた事を僕から先に言わせてください!!」

 そんな……まさか……。
 ヒナギクさんの中に期待と不安が、そして信じられない気持ちと、信じたい気持ちが生まれ、そして混ざっていきました。 

「ヒナギクさんは……」

 そしてハヤテ君は言いました。

「もっと羞恥心を持つべきです!!」

 告白というよりは忠告の言葉を。

「は?」
 
 予想外にも程がある言葉に耳を疑うヒナギクさん。ですが、ハヤテ君はそんなヒナギクさんの気持ちなんて知ったことではないらしく、告白というよりはお説教を続けます。
 下に水着を着ていたとはいえ、大勢の前であんなパッと服を脱ぎ捨てるのはいかがなものか。
 初めて会ったときも、スパッツだからといって木登りをしていたのははしたない。
 パンツじゃないから恥ずかしくないもんが通じるのはアニメの中だけ。
 酒豪の妹は羞恥心が小学生並なんですか?
 無防備すぎる、女の子としての自覚が足りないと熱弁を奮うハヤテ君。
 そしてヒナギクさんは、拳骨を振るいました。












管理者にだけ表示

トラックバックURL↓
http://bbkiriblog.blog70.fc2.com/tb.php/1001-9b309ccb

ハヤテのごとく!223話【勝つことと幸せはイコールで結ばれない】畑健二郎
 幸せになれない勝利は敗北なのだ、とも考えられる。エペイロス王ピュロスの領地にそこそこ近づいてのピュロス王的勝利なのであった。  しかし、人気投票の結果に影響されたとしか思えない話が長々と続いたものだ……畑先生と一読者である私の間に、話の重要性に対する...

2009.05.17 14:47 | 360度の方針転換